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吉岡実と餃子ライス

わたしが水死人であり ひとつの個の くずれてゆく時間の袋であることを 今だれが確証するだろう

吉岡実「挽歌」

以下は単なる与太話だ。

古本屋街で有名な東京・神田神保町に、餃子の店がある。あの辺りはもともと学校も多く、大して金がない学生には(もちろん稼ぎの薄いサラリーマンにも)重宝する安い食い物屋が、ちょっと裏道に入るとすぐに見つかる。職場のかなり年上の先輩に、そのなかでもお薦めという何軒かの店に連れていってもらっては、場所を憶えておく。自分一人の時も、その日の腹具合、懐具合と相談のうえ適当な店で昼飯を済ませ、食後は古本屋をひやかしながらうろうろと歩き廻っていた時期があった。腹もふくれて、ほしかった本を古書で安価に掘り出すことができた昼休みは嬉しかった。

その餃子の店へ先輩と一緒に昼飯を食べに出た何度目かの時に、偶然「ここは吉岡実がよく来ていた店らしい」という話題が出た。あくまでも「らしい」という程度の信憑性だ。ただ、吉岡実が編集者としてバリバリ仕事をしていた頃に、彼の勤務先はたしかそこからさほど遠くないところにあったはずで、ありそうな話だった。

売り物の餃子はそこそこという感じで、特段のことはない。どうしてなのかな、と思っていると、実は吉岡実はその店の女将のファンだった、という落ちがついていた。昼食時の混みあう時間帯に、適度に鷹揚に構えながらけっこう目配りを利かせて、いかにも「ここは私が仕切っている」という雰囲気を漂わせた年増のちょっと肉感的な女性が、たしかにいつもいる。吉岡実はかなりエロティックな作品もそれなりの数を書いている。これもまた、実際そのとおりであったとしても決しておかしくなさそうな落ちだった。

言葉の力

この話を先輩から聞かされる以前、私には数年にわたって吉岡実の詩にほとんど文字通り呪縛されていた時期があった。冒頭に掲げた引用(部分のみ)は、彼の作品のうちでも最もよく知られたもののひとつだと思うが、これを学生時代に初めて読んだ時、言葉にはこんなことができるのかと、本当に、心底から驚愕した。驚きから畏敬、崇拝に近い思いを抱いていた時もある。こうした詩作の秘密というか、秘訣まで理解しようと挑んだが、作品解釈の段階でつまづいてとてもではないが歯が立たないと感じた詩篇多数。

残念ながら、実際に吉岡さんの姿をたとえ遠目ででも目にする機会はないままになってしまった。肖像写真をご覧になった方はご記憶かと思うが、吉岡さんはギョロ目だ。もしその餃子の店で昼飯時に同席することでもあったなら、私は緊張で喉が詰まり、あの眼球2つから放たれる視線によって勝手に金縛りになっていたかもしれない。

ちなみにそこの餃子ライスは、私が時々行っていた頃の値段で500円を切るくらいだったと思う。今のようにデフレで食い物の価格が甚だしく下がる以前のことで、味はさて措き、値段の点では大変ありがたかった。作品が好きでも、それを書いた人には会いたくないような作家がいて、こんなもの(褒めても貶しても)を書いたのはどんな奴だと、無性に作家その人に会いたいと思うこともある。吉岡さんには、お目にかかってぽつぽつと一言二言でも言葉を交わし、生身の詩人の息吹に短い時間でもふれてみたかったと、今でも思っている。

野暮を承知で敢えて付記する:本稿はオマージュです。

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  • 小林一郎さんの手に成る「吉岡実の詩の世界――詩人・装丁家吉岡実の作品と人物の研究――」。綿密で網羅的。本拙稿の準備のため、念のためウェブ上の資料を検索して、今回初めてこうしたサイトがあることを知った。

    小林さんもトップページの「このwebサイト《吉岡実の詩の世界》について」で書いておられるが、もし興味をお持ちになられたなら、ぜひ紙媒体でじかに作品にふれていただきたい。横書き・発光ディスプレイを通じて見る日本語の詩は、或る意味で虐待されている。

  • 入手しやすさからいって、たぶん現代詩文庫『吉岡実詩集』(思潮社、1977年)・同『新選吉岡実詩集』(思潮社、1978年)が最も手ごろだと思います。自治体図書館の中央館などには『吉岡実全詩集』(筑摩書房、1996年)を所蔵しているところがあるかもしれません。

  • 冒頭に掲げた「挽歌」は詩集『静物』(1955年)所収。残念ながら私は、吉岡さんの初期の詩集の現物を古本屋でも見かけたことがない。

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