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追悼 John Peel

本稿は標題とおりの内容で、John Peel に関わる思い出を書いた。プライヴェイトでない思い出はほとんどありえない。無造作に置いておくのも気恥ずかしいので、以下、すべて「続きを読む」にて。

John Peel の名前と、彼のややこもっているが深みのある声を最初に耳にしたのは、思い返せばもう30年近く昔のことになる。NHK FM が BBC からテープを買ってそのまま放送した、オランダ、アムステルダム Concertgebouw における(……というアナウンスを John が番組冒頭にしたのを、今でも憶えている)King Crimson の伝説的ライヴだった。番組名はたしか "In Concert"(だったと思うが、未確認)。もちろん、会場内の反響音も聞き取れる John のMCは、ろくに英語の文法も単語も知らない子供だった当時の自分には何を言っているのか理解できる由もない。だがエア・チェックしたカセットを演奏の迫力に魅かれてくり返し聴くうちに、この時期の Crimson の曲名にその作品からのフレーズが使われた Dylan Thomas や彼の詩劇 Under Milk Wood("It is spring, moonless night in the small town, starless and bible-black, ...")といった固有名詞を、John が演奏の曲間に短くアナウンスした口調とともに、わけもわからずいつの間にか暗記していた。

この時の Crimson のライヴは1973年11月のもので、25年後の1998年になってようやく The Nightwatch として公式リリースされたのは周知のとおり。John のMCが公式盤からは(当然のごとく)きれいさっぱり消されていたのは、個人的にけっこう残念な気がした。あるいは John のMCはオーヴァダビングで若干のエコーをかけて後から被せただけかもしれない。実際のところどうだったのだろうか。

John が自身の名前を冠したシンプルな "John Peel Show" という名前の音楽番組を週日毎晩2時間にわたって放送していると知ったのは、おそらく Peel Sessions からめぼしい音源を随時放送していた NHK FM で、ほとんどいつも解説を加えていた渋谷陽一の喋りを聞いたものか。それ以前に私は、一時期すっかり夢中になっていた Pink Floyd の非正規音源LPを小遣いを貯めては細々と買い集めていた。Floyd のそうしたライヴ演奏には、聞き覚えのある John の声が入っているものもあった("Echoes" をはじめとする、1971–72年頃の演奏と思われる妙に音質のいいライヴ(演奏の出来も、"Fat Old Sun""Green Is The Colour" などは、オリジナルのスタジオ録音の出来をはるかに凌駕していた)は、明らかに Peel Session のエア・チェックをLP化したものだった)。

“アンダーグラウンドの雄”だった Syd 在籍時代の Floyd を John が熱心に後押ししたことは、公刊された Floyd の複数の評伝でも記録されている。この時期は、John の BBC におけるキャリアの出発点とも重なっているようだ。奇しくも、BBC Radio 4 で昨夜放送された「Front Row」の Peel 追悼番組(30分、17分50秒付近から)で、Nick Mason が電話インタヴュウに答えて、この駆け出し時代から Floyd が幾度も John の番組のためにスタジオ・ライヴを行なった頃にかけてのことを回想してこう語っている(趣意):「John は、自分がサポートしていたバンドがひとたび成功への道に乗って自前でいろんなことができるようになると、放っておいて後は好きなようにやらせてくれた」 「John に関して最も尊敬に値すると思うのは、John が本当に自分たちのやっている音楽それ自体を気に入ってくれていたことだ。彼にとってバンドの連中なんて或る意味どうでもよかった。演奏される音楽だけが大切だったんだ」云々。時代がはるかにくだって、Floyd が商業的大成功を収め、すでに崩壊の兆しを示し始めていた時期、John がまだこのバンドを気にかけていて茶目っ気を発揮したことは、以前に拙稿でもふれた。

そして Crimson のライヴ録音を聴いて数年後、実際に John のこの番組を毎晩聴く機会を得た。私が Radio 1 で "John Peel Show" を聴いていたのは、(以前にもふれたが)パンク・ロックがほぼ完全に終焉する一方、それ以前のビッグ・ネイムが軒並み解散したり実質上の活動休止に追い込まれたりした頃だった。キッチュなテクノと重苦しいオールターナティヴ、明るく能天気な音を出しながら深刻なメッセージ色の強いレゲエと(この辺りはとうとう最後までよくわからなかったが)ブリティッシュ・フォーク(? ギター一本で、頭韻・脚韻を踏んで言葉遊びのような歌詞を猛烈な速度で歌う)などが、ごった煮のように次から次へと、毎晩2時間の番組枠に無理やり詰め込むようにかかった。

毎晩の番組で、John はたいていテーマ音楽に被せて「Good evening, this is John Peel...」などと言った後すぐに曲をかけ、曲間に曲のタイトルやバンド名にひっかけた英国流ジョークをちょっと喋り、あるいはたまに収録当日の模様を簡潔に言葉にして伝えながら新旧の Peel Sessions 音源を流していた。夥しい数のデモ・テープや自主制作盤が地元英国各地はもちろんのこと、日本や米国、さらにはアフリカの一部や南米など、文字通り世界中から彼のもとに届けられた。John がそれらを(少なくとも番組でかける曲については)すべて自分で聴いているのは、短いとはいえ曲やバンドの核心を衝く彼のトークの内容からも容易に知れた。

John がかける曲を聴けば、彼が決して出来合いの“完成度”をミュージシャンやバンドに求めていないことは明らかだった。この時期の John の最大の“掘り出し物”のひとつは Joy Division だったと思うが、Ian Curtis 在りし日に彼らが残した Peel Session での演奏は、私が聴いていたさほど長くない時日のあいだにも幾度か放送された。後にCD化されていま聴くことができる彼らの生演奏は、実にひどいものだ。Ian の音程がずれているのは彼のヴォーカルの魅力にもなっているが、ドラマーは伸縮自在にリズムを乱し、ギターとシンセはミス・トーンを連発する。それでも John は彼らに何かをみつけ、12インチを頻繁にかけ、ときに Peel Session 音源を流すことで熱心にサポートし、我々にこうしたバンドがいることを伝えていた。確認はしていないが、しばらくの沈黙期間の後、Joy Division の生き残りが New Order として "Ceremony" を12インチでリリースする前、最初のエア・プレイはやはり John のこの番組によるものだった記憶がある。

Radio 1 を聴くことができなくなってから、短波の BBC World Service で(たしか30分か45分程度(?)の枠で)週1本放送される "John Peel Show"(Radio 1 での放送のダイジェスト版というわけでもなさそうな内容だった)を、雑音とフェーディングと短波放送の劣悪な音質にくじけそうになりながら、それでも可能なかぎり欠かさず1年か1年半ほど追いかけていただろうか。しかし自分の興味が次第にロックから離れていき、John がいまどんな音楽を自身の番組でかけているのか、いつの間にか意識することはなくなっていた(日本語の音楽メディアには彼に関する情報はほとんどなかった(と思う)せいもある)。最近になってインターネットのストリーミングで BBC の国内ネットワークが聴取可能になったことを知って以降も、時々アーカイヴを聴いてみたりするくらいで、結局そのまま昨夜遅くの訃報に接することになった。

こうして改めて振り返ってみると、John からの直接的な影響を受けて聴くようになった音楽は、自分の場合相当少ない。それでも昨夜から BBC 公式サイトで彼の追悼番組のストリーミングを聴き、ウェブ上でさまざまな人たちが彼の死を惜しみ悼んで書いたものを読んで、若かった頃のことを否応なく思い出して感傷に耽り、そして同時にとてつもない穴が開いたような気分を味わっている。

彼の番組を一度でも聴けばわかる本当に驚くべき音楽的趣味の幅の広さと、それらをごた混ぜにしてリスナーのほうへ向けてぽんと投げ出すように紹介することで番組がいつも湛えていた一種の猥雑さ、決して気取らない人柄がにじむ語り口……こうしたものはもう戻ってこない。そして何より悲しいのは、音楽を聴いていて煮詰まったり飽きてしまったりした時、「そうだ、John Peel は最近何を聴いているんだろう」といつでも John の趣味を参考にして、自分にとっては未知の新しい音楽と出遭うことができるという安心感を、もう今後は決してもつことができなくなったことだ、という気がする。

最後に、上掲 BBC Radio 4「Front Row」追悼番組を聴いて印象に残った言葉をいくつか引用する(趣意):

  • John Peel:

    番組でかけるレコードを選ぶのに何を基準にしているかとよく訊かれるんだが、答は僕にもわからないし、知りたいとも思わない。人がやる価値があることの大元のところ、良いものの大元には、必ず核(kernel)になるような名指すことができない何か、言い表すことができないような何か(unidentifiable, ... undescribable)があると感じているから。

  • Paul Gambaccini:

    Peel には、その時々の音楽シーンに何が欠けているのか、その隙間を察知して、どんなレコードでそれを埋めることができるかを感じられる驚くべき勘があった。後になればそうした選択は当然のように思える、でもその当時は「何だそれは」という感じだった。たとえば彼は Led Zeppelin をライヴ・セッションに招いた。いま考えれば Led Zeppelin は当然のピック・アップに思える、でも当時はそうではなかった。そして、Peel は来る日も来る日も、40年間に亙って新しい音楽を浴びるように(by the bucketload)聴き続けた。……私は、世界の歴史上 Peel 以上にさまざまに異なった音楽セレクションを聴いたことがある人はいないと確信している(I am convinced, that he's actually heard more different musical selections than anyone else in the history of the world)。

  • Damon Albarn:

    彼には境界(boundaries)というものがなかった……彼は音楽というものの精髄(spirit of music)を体現していた、彼の体には音楽のスピリットが流れていた。

  • Andy Kershaw:

    最後に John と話したのは3週間くらい前のことだった。「John, ずいぶん疲れているように見えるけどどうした?」 「正直に言うと、Radio 1 の番組の放送時間が今まで以上に遅くなってきついんだ〔22時から2時間が、最近は23時から深夜1時までになっていたらしい〕、ほかに番組もあるし〔Radio 4 でホストを務めていた「Home Truths」〕……とうとうお役御免になりかけてる気がする(I feel marginalised and...)。死にそうにしんどいよ」 「何を言ってるんだ、あんたは Radio 1 より大物なんだぜ。どうして局にこの時間帯に自分は番組をやりたいと言ってやらない。やる番組も減らせよ。あんたはもう65歳で糖尿なんだろ?」この莫迦野郎(Silly bugger...)。〔この最後の一言は、罵詈ではなく感極まって発せられている〕

Hoping to see you there some time, John.... Thank you ever so much.

category: music | permalink | Comments(0) | Trackbacks(1) |
John Peel 逝く……
BBC の名物ディスク・ジョッキー、実に幅広い音楽を聴き、愛し、我々に伝えてくれた John Peel(リンク先は BBC Radio 1 内の公式ページ)が亡くなったそうだ。休暇(working holiday)中の滞在先、ペルーの Cuzco にて。65歳
from Night rain, in winter... | at 01:20 on 2006/08/04 |
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