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Roger Waters を点描する試み

先日公開された新作2曲をオンラインで試聴してから、Roger Waters のことを考えていた。

先日の拙稿(先ほど "Leaving Beirut" に関する若干の追加情報を加えた)にトラックバックを送ってくださったゆうけいさんが、ご自分のウェブログ「ゆうけいの月夜のラプソディ」でその後続けて物されたエントリで述べておられた内容にも刺戟を受けた。記して感謝するとともに、トラックバックを送ります。

上掲拙稿9月4日付追記のとおり、Roger の新曲についてはゆうけいさんの記事が詳しい。ぜひご一読を。

Good enough...

Roger についていつも思い出す、彼自身が語った逸話がある。彼の在籍時最後の Pink Floyd オリジナル・アルバム、The Final Cut (1983) リリース後、しばらくしての出来事と思われる:

……八百屋へ買物に行った時のことだ。40歳くらいの、毛皮のコートを着た女性が近づいてきて言った、The Final Cut は今までに自分が聴いたレコードのうちで最も心を動かされたものだと思う、と。彼女の父親も第二次大戦で殺されたと話してくれた。僕は3ポンドのジャガイモを抱えて車に戻り、家へと車を走らせながら思ったんだ、十分じゃないか〔原文:good enough〕、と。

Chris Salewicz による Waters へのインタヴュウ、1987年6月

発表当時、The Final Cut は「前作 The Wall (1979) のアウトテイクや残りかすの寄せ集め」「直截で拙劣な政治批判」「Pink Floyd 名義で出した Waters のソロ・アルバム」等々、大方の酷評を受けた。このアルバムには、珍しく副題が付されている:「Roger Waters による、戦後という夢に寄せる鎮魂歌、演奏 Pink Floyd(A requiem for the post war dream by Roger Waters, performed by Pink Floyd)」。アルバム・スリーヴ裏側にクレジットされているミュージシャンのリストからは、バンド結成以来のキーボード担当 Rick Wright の名前が消えていた。「Waters のソロだ」という指摘は、あからさまなサブタイトルやクレジットに照らしても、あるいは書籍や雑誌記事、バンド・メンバーへのインタヴュウなどを通じてリリース後に明らかにされたアルバム制作の実情を勘案しても、おそらく正しい。

このアルバムは、マルヴィナス諸島をめぐる戦争が英国とアルゼンチンの間で勃発し(1982年4月–6月)、双方に戦死者も出て世情がまだざわついたままだった時期にリリースされた。歌詞にはフォークランド戦争当時英国で政権を握っていた "Maggie" Margaret Thatcher はもちろんのこと、長期間にわたってソ連に君臨し、政権末期にアフガニスタンへ侵攻して東西間に再度の冷戦状態をもたらした Brezhnev、ヴェトナム戦争を長引かせた米国大統領 Nixon など、多数の政治家/権力者たちの名前が素のままで出る。彼らは歌のなかで Roger の思うがままに虚仮にされ、玩ばれる。

上掲の逸話を、自分は最初にどこで知ったのだったか。まったく思い出せない。ただ、The Final Cut には、戦争を直接的にはまったく知らない私にとっても痛々しいくらい響いてくる曲が数曲収められていて、アルバム全体の出来映えは別として、そうした個別の曲を自分は高く買っていた。この逸話を知ったとき、思わず「そう、よかったじゃないか」、そんなふうに Roger に向けて言いたくなる気がしたのを憶えている。

Syd Barret の“亡霊”

もうひとつ思い出すのは、Roger が別のインタヴュウで The Wall 所収 "Nobody Home" の歌詞に言及したこれだ:

この曲の歌詞のうち数行は、Syd Barret の平穏だった日々を思い返している。部分的には僕が実際に知り合ったありとあらゆる人たちのことを書いたのだが、自分が知るかぎり、輪ゴムでブーツを〔ずり落ちたり壊れたりしないように〕留めていたのは Syd だけだった。それがこの〔「靴を留める輪ゴムもちゃんと持っている」という〕歌詞の出所なんだ。……

Tommy Vance による Waters へのインタヴュウ、1979年11月

周知のとおり、Syd Barret は Floyd のオリジナル・メンバーかつ中心人物だった。ポップでサイケデリックなメロディをたくさん書いた一種の天才だが、薬物に中毒して奇行を重ねるようになり、デビュウ・アルバムと2枚目の一部の制作に関わっただけで、David Gilmour と入れ替わりにバンドから去った。

彼は(まだ健在なはずだから、こういう言い方は失礼なのだが)あたかも亡霊のように Floyd に憑いており、意外な場面でうっすらと姿を見せる(これは Roger だけに限った話ではないようだ)。Wish You Were Here (1975) のアルバム標題曲が Syd について直接歌っているのは有名だし、当のこのアルバム制作中にスタジオへ Syd 自身がふらりと現われ、メンバーの誰一人として、肥満して昔日の面影を失くした彼が誰なのかしばらく気づかなかった、という話もよく知られている。

そうした裏話はこのインタヴュウ放送当時すでにファンの間でも既知のことだったが、上掲の Waters の発言を聴いたとき、私は「こんなところにもまだ Syd の影が……」と、改めてひじょうに強い印象を受けたのだった。その後映画化された際に Bob Geldof が演じた、ロック・スター転じてファシスト化し「ホモ野郎どもを、ユダヤ人を、病人を壁際に立たせろ」と絶叫するに到る The Wall 中の虚構のキャラクタ "Pink" は、Roger のこうした Syd にまつわる記憶と、Dark Side Of The Moon (1973) の桁外れな商業的成功の後に Roger 自身が抱くようになった誇大妄想とがないまぜになっている。神経を病んで日常ではない世界へ行ってしまった Syd のことを、Wish... でアルバム一枚に仕上げても飽き足らず、さらに重ねて歌詞に織り込んで歌わずにはいられなかった Roger は、ほとんど偏執狂(的)だと言える。それはそうだが、この時 Roger が感じていたに違いない痛みは、おそらく救いようがないほどに深い。

Tommy Vance "Friday Rock Show"

以下の一節は、かなり脇道にそれるが、備忘の意味もこめて書き留めておく。

上で引いた Tommy Vance による The Wall 全曲解説インタヴュウは、BBC Radio One の "Friday Rock Show" で放送された。私は偶然これをリアルタイムで聴いた。アルバムのリリースとほぼ同時か、若干先行する日時にオン・エアされたように記憶していたのだが、ウェブ上で見つかる記述によれば、The Wall の英国内リリースが1979年11月30日、インタヴュウの放送も同日夜だったようだ。

Vance はこの番組を担当していたDJ。当時早くも古ぼけた感じを漂わせていた番組名同様に、内容もロック界で有名どころのミュージシャンやバンドばかりをかける、率直に言ってあまりおもしろくない番組だった。ただし毎回、BBC が誇るライヴ録音アーカイヴやインタヴュウ・テープから貴重な音源を再構成して流すコーナーがあり、それを楽しみにしていた。時代は、Sex Pistols 登場以降一気に盛り上がり一気にしぼんだパンク(Punk)の後、YMO や プラスティックス、巻上公一のヒカシューを始めとする日本発のテクノが、Joy Division や A Certain Ratio といった Factory レーベルのバンドに交じって同じ Radio One の John Peel Show で流れていた頃だった。

ところがこのインタヴュウが2時間の枠全体を費やして放送されるたしか前の週(やや不明瞭な記憶による)、突如 Floyd の“当時最新の”シングル・カット曲 "Point Me At The Sky" (1968) が番組で流された。“当時最新の”とは、1979年当時、Floyd は英国内では先立つこと10年以上前に発表されたこの曲を最後にシングルを一切アルバムから切っておらず、レコード会社が発売したものを除いて、公式にバンドの意向に基づいて発売されたシングルはなかったという意味だ。そういう趣旨のことを Vance はしゃべり、この度 Floyd が新作から "Another Brick in the Wall Part II" をシングル・カットしたことを伝え、そして「次週の放送では Roger Waters その人が自ら Floyd の最新作 The Wall について語る」、とぶち上げたのだった。

このアナウンスを耳にした時に自分が感じた興奮、その次の週にカセットで録音しながら文字通り固唾を呑んで聴いた Roger のインタヴュウを、今でも鮮烈に憶えている。当時の Floyd は音楽紙誌を含むあらゆるメディアからの実質的な隠遁を果たしていて、ほとんどニュースらしいニュースがなかった。番組を同時録音したテープは幾度も幾度もくり返し聴いた(毎度のことで整理が悪く、その後紛れてしまった。捨ててはいないのでどこかにある……はずなのだが)。Vance はその後も自身の番組で、年が明けた1980年1月に Roger への電話インタヴュウを流し、英国内(ロンドン)での The Wall ライヴ公演の予定を公表した。

本稿公開当初、実際には1979年のことだった The Wall リリースと Waters インタヴュウ放送日を誤って「1980年」11月30日と記し、続く翌年早々のロンドン公演予定発表も1年ずれ込んで「1981年1月」としていた。完全なケアレス・ミスでした。お詫びして訂正します。〔2004年9月13日記〕

主張する音楽

Floyd の音楽を顧みると、私ごときが言うまでもなく、バンドの作品史における最大の転回点が Dark Side... だったことは明らかだ。この怪物アルバムの30周年記念として2003年にリリースされたリミックス版SACD販促用「電子版プレス・キット(Electronic Press Kit)」(リンク先は、Floyd のファン・サイト Brain Damage が英国EMIの公式許諾を得て公開しているページ)に収録された Roger を含む4人のメンバーの発言によれば、このアルバムのテーマは「生きることに伴なうさまざまな重荷(pressures of life)」。

続く Wish... では Syd Barret を偲びながらも金儲け至上主義に陥った音楽ビジネスを皮肉り、Animals (1977) では Mary Whitehouse(リンク先は Wikipedia 英語版同氏の項)を引き合いに出して思考停止に陥った“人々”を戯画化する。The Wall で複数のモチーフのひとつとして戦争の狂気をとり上げ、Roger が実質上自らのソロ・プロジェクトに強引にしてしまった The Final Cut で、第二次世界大戦で戦死した自分の父親を回顧するかたちでこれに焦点を絞った。

極端に図式化すれば(と留保をつけておく。ここでは各アルバムに収録された曲の成立年時など、他に考慮すべき要素を一切切り捨てている)、おそらく上のように言っても大過ないだろう。方向性として、歳月の経過につれて抽象度が次第に低くなり、歌われるテーマは具体性を増していく。

しかし個人的には、ソロに転じてからの Roger の作品は相当しんどいという印象を持っている。Pros And Cons Of Hitchhiking (1984) と Radio K.A.O.S. (1987) の2枚は、まったく響いてくるものがなかった。この2枚を聴いて、もはや Roger は終わった(同程度につまらないオリジナル・アルバムを(2枚も)作った Floyd の残りの面子にも失望したが)と思ったが、彼は Amused to Death (1992) で一度は見事な再起を果たしたと、私は考えている。ただし、このアルバムを高く買うが、それも自分にとっては曲と演奏(とくにギター客演の Jeff Beck に依るところが大きい)がいいのであって、歌詞は読む/聴くに耐えない部分が残る。

ベルリンの壁崩壊後の The Wall 再演その他の、“イヴェント”オーガナイザ/プロモータ/出演者としての Roger の活動は、私自身はすべて未見。

あまりにも唐突なのは十分承知のうえで……ここで大岡昇平の傑作『野火』を思う。戦争の狂気と人倫、一神教(この小説の場合はキリスト教)の神――作品最終部で衝撃的に現われる天皇制(というよりも天皇崇拝)への言及を除けば、Roger が音楽を通じて発信しようとしていることのかなりの部分がオーヴァラップしている(と私は感じる)。

『野火』はじわりじわりと“効いて”くる。決して声高に叫ばない。重いが、強いることなくしかし否応なく、読み手に考えさせる。むろん、Roger が大岡とその作品を知るとは思えない(『野火』をはじめ大岡作品のいくつかは英訳されているので、ひょっとしたら読んだことがあるか?)。また、ソロ・ミュージシャンとしての Roger の活動や作品の多くを、自分が個人的に気に入らない/つまらないと思うということを理由に、ひとしなみに取るに足らないと切って捨てるつもりもない。とくに政治や社会に関わる事柄をテーマにして、本当に優れた作品を創ることはむずかしいと思うばかりだ。

前回拙稿の末尾にも書いたが、Roger の新作、もしアルバム化され、全体像をいまオンライン公開中の2曲を含めて知ることができた時に、また何か書くことがあるかもしれない。そう書きながら、時機が至らぬうちに再度こんな駄文を長々と連ねるくらい、まだまだ自分は彼に期待しているんだな……そう思う。

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以下、すべて英文。

  • Pink Floyd に関するウェブ上リソースは、文字通りの汗牛充棟だ。資料的な価値が高い優れたウェブサイトとして、ここでは The Pink Floyd Fan Club を挙げておく。インタヴュウの転載・転記ドキュメントが充実している。ただし出典/初出についての情報はやや不十分。

  • BBC Radio One での Tommy Vance による Waters インタヴュウ前後の事情について、上記サイト所掲「Pink Floyd - Behind The Wall」(冒頭の記述によれば、Record Collector 誌2000年3月掲載、著者:Kevin Whitlock さん)を大変参考にさせていただいた。記して感謝します。

  • この The Wall 全曲解説インタヴュウは、「The Wall - song by song - 1979」などで読める(ウェブ上に多数の転記ファイルあり)。また、音声ファイルが Ken Nicholson さんのサイト Pink Floyd: The Wall にある(が、先ほど確認したところ、4分割されたうち最初の1本(10分弱)のみが正常、残りの3本は残念ながら不通)。

  • “Good enough”のエピソードを含むインタヴュウの転記(転載?)は「Roger Waters Interview w/Chris Salewicz, June 1987」。初出が不明だが、Radio K.A.O.S. songbook (1987, Pink Floyd Music Publishers Ltd) に掲載されているようだ。

  • Roger は還暦を迎えたそうだ。これにちなんで BBC 6 music が、以前放送した Wish You'd Been Here: The Pink Floyd Story と題する120分のドキュメンタリを9月6日から9日にかけて再放送した由。この番組を音声ファイル化したもの全篇を以前某所でストリーミングで聴けたが、現在当該ファイルはページごと消滅している。BBC 公式サイトでは「6 MUSIC PLAYS IT AGAIN」にて9月11日午前現在オンライン聴取可能(だが、数日中に別のものに差し替えられそうだ)。これも数年後には転記、ウェブで読めるようになってくれるとありがたいのだが。番組の最後で、Rick Wright が「夢なのかもしれないが、いつの日かまた Syd と一緒にバンドをやれる日が来ればいいと思う」と言っている。泣ける。

  • 本文中でふれた Dark Side... 30周年記念盤プロモーション用電子版プレス・キットは非常に興味深い。映像の出来映え・メンバーや関係者(アルバム・スリーヴをデザインした(当時 Hipgnosis の)Storm Thorgerson など)の発言内容ともに見どころ・聴きどころ多し。

  • 〔04年9月11日追記〕しまった、これを挙げておくのを忘れていた。検索エンジン経由で偶然みつけたもの。「The Secret Diaries of Roger Waters」。Stuart Greig さん作、ネットニューズの alt.music.pink-floyd への投稿、1996年初出の由。“Roger による”架空日記。爆笑ものです。こういう洒落のめし笑い飛ばした書き物は、対象への深い理解と一種の愛情がなければ書けない。しかし、訴訟を連発していた時期の Roger 本人が読んだら、著者はそれこそ訴えられていたかもしれない……そんなことさえ思わせるところが残るのは、Roger 本人の名誉のためにもかえすがえすも残念な気がする。〔04年9月11日追記終〕

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"Friday Rock Show" の Tommy Vance も逝く
英国 BBC Radio 1 で1970年代末から90年代初めにかけて、毎週金曜22時から2時間の音楽番組 "Friday Rock Show" をもっていたディスク・ジョッキー、Tommy Vance が昨日3月6日に亡くなった。享年63歳。昨年(2004年)10月に65歳で
from Night rain, in winter... | at 01:54 on 2006/08/04 |
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