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Tom Waits の Waltzing Matilda

Rock Bottom by jefta
 いや、俺はあんたの同情なんていらない
 放浪者たちはみんな言ってるよ
 街はもう安楽に夢見られるところじゃなくなっちまったと
 人殺し捜査のローラー作戦や、
 思い出を売りつける亡霊ども
 どのみち奴らはひと騒動起こってほしいと思ってるだけだ
 ほら、マチルダを背負って行こうぜ
 マチルダを揺らして行こう
 俺と一緒に行こう
Tom Waits "Tom Traubert's Blues
(Four Sheets to the Wind in Copenhagen)"
から

いつも裨益される Kompf さんのウェブログ「快楽原則」で、作曲家 Gavin Bryars(リンク先は彼の公式サイト)が Brian Eno の Obscure レーベル最初のアルバムとして発表したものだという Jesus' Blood Never Fails Me Yet(ライナーノーツ抜粋が読め、また作品の一部を試聴可、試聴には要QuikTimeプラグイン)についてのエントリ(2004年6月8日付)を拝読。先日ようやくCDの現物(1993年版)を手に入れ、Tom Waits の歌声に久しぶりに聴き入った。恥ずかしながら私は Bryars については名前しか知らず、また Tom が Bryars のこの作品で歌っていたのも Kompf さんが書かれた記事で初めて知った。

そしてついでに Tom が Asylum レーベルで発表した7枚のアルバムからのコンピレィション、Used Songs: 1973–1980 (2001) も、遅まきながら買ってきた。この時期の Tom Waits の音楽を、私はほとんど聴いていない。最後の16曲目に、上に拙訳で詞の抜粋を載せた "Tom Traubert's Blues (Four Sheets to the Wind in Copenhagen)"Small Change (1976)所収)が入っている。最近 Radio Paradise 経由で初めて聴いて、ぜひ手許に置いておきたいと思った曲だ。泣ける。

この曲は、本物の Tom Waits ファンの方々から「この曲を知らないのか」と虚仮にされても当然なくらいの極め付きの有名曲であるようだ。私はご大層にこんなエントリを書きつつ真正 Tom Waits ファンではないことを自認している。申し訳ない。

まことに印象的な Bryars の Jesus' Blood... については、また別稿を期したい。作品および Tom Waits がこの作品で歌っていることが、彼の熱心なファンの間では周知の事実らしいことを、これまた本稿執筆にあたってようやく知った。

「ポップス・イン・ピクチャー」

Tom Waits を最初に知ったのは、「ポップス・イン・ピクチャー(Pops in Picture, PiP)」という、70年代前半から少なくとも半ば過ぎくらいまでは放送していた、当時としては珍しい洋楽主体の音楽映像番組(?)だった。KBS京都制作で、司会は川村尚(ひさし)さん(後に川村龍一として、大阪のMBS毎日放送で長らくラジオの朝ワイドを担当した方らしい)。何度も書いているが、まだ“MTV 以前”の頃のことだ。洋楽に興味を持ち始めた子供には、“動く”ミュージシャンが見られるほとんど唯一の機会で、とてつもなくワクワクする番組だった。私のところでは神奈川のTVK(UHF局)経由で見ていた。UHFのアンテナがきちんとTVK送信所の方角を向いていなかったらしく、映りがちょっと悪くて、アンテナからのフィーダ線を手で握ったり引っ張ってみたりして画質を少しでも良くしようと懸命だったのも、いま思うと懐かしい。

当時もミュージシャンやバンドはプロモーション用の映像を作っていたらしく、この「PiP」で放映される映像の大半はそうしたものらしかったが、Peter Hamil/Van der Graaf Generator や Camel のもの、ソロになった後の Ian Gillan(川村氏が当時かなり肩入れしていて、たしか一度は生出演した(??))、ギタリストが延々ヘッド・バンギングしつづける AC/DC のライヴ映像など、選曲もけっこうユニークだった。

この番組で Tom の映像は何度か流れたように記憶しているが、ウィスキーらしい琥珀色の液体が入ったグラスを置いて、紙巻タバコを灰皿で燻らせたままピアノで弾き語るライヴでの姿……を見たように思うのは、あまりに出来過ぎかもしれない。

そうした光景を本当にTVで観たかどうかはともかく、酔いどれたヨレヨレの親爺(しかし、1949年生まれの Tom はどう考えても当時実際には20代だったのだが)、潰れかけた濁声、あまりに男臭い雰囲気は強烈だった。肝腎の彼の音楽のほうは幼すぎた当時の自分にはまったくピンと来なかったのだが、とにかく Tom Waits という人のことはこの時記憶に刻まれた。「PiP」で川村氏は、たしか「Tom Waits はわざわざ声を潰すために酒とタバコで無茶を重ねた」という逸話を紹介していたように思うが、ちょっと曖昧な記憶だ。

"acquired taste"

それから数年後(わずかな歳月だが、10代から20代にかけてのことなので、主観的時間としてはとても長い)の学生時代、Rain Dogs (1985) が出て、友人から「絶対のお薦めだから」と半ば無理やり聴かされた。きちんと歌わずほとんど唸り声を上げながら咆えているとしか思えない曲や、ガチャガチャとやたら騒々しいバッキングがついている曲もあるこのアルバムは、実にとっつきにくかった。しかし Tom のことは上述のとおり映像を目にして以来なんとなく気にはなっていたし、私よりもはるかに鋭く確かな音楽的センスの持ち主だった友人がいつも以上に強力に推してもいたので、我慢してまるで苦行のように幾度も幾度も聴いた。

すると或る時、スッと突き抜けていく瞬間が訪れる(いや、そうした瞬間がずっと来ない人もいるだろう。それはそれで当然のことだと思う)。こんなひどい濁声の、アル中かと見紛うオッサンのうるさい歌のどこがいいのかと、いささか大仰だが心理的障壁というか、自分のなかで抗う部分がある。それをなんとかやり過ごして聴き続けているうちに、或る時点で抵抗感が一気に融けて無くなり、Tom の歌声と音楽とが直接自分の耳と心に入ってくる。歌詞をよぅく読んでみる、ざらついた Tom の声・実に味わい深い詩情を湛えた詞と物語・ときに意外なほどに優しい旋律の組み合わせの妙に改めて気づく……そんな感じだろうか。

このあたりの機微は、(私はアルコールを体質的にうけつけずまったく飲めない/飲まないので、酒に見立てることはできないが)タバコでいうなら、点火する前でも燃えている間でも独特のにおいがするラタキア葉やペリク葉、その他オリエント葉を加えた「ミクスチャ(mixture)」と呼ばれるパイプ煙草の喫煙に似ている。その喫味がわからないかぎりは、こうしたタバコ葉が発するにおいは厭な“臭(にお)い”だが、ひと度その旨さを味わえるようになると、それはこたえられない“芳香”に転じる。

英語に“acquired taste”という表現があるのを、以前の拙稿末尾でも挙げた Pipes Digest で数年前に初めて知った。ちょうどいまふれたような、タバコ・ミクスチャの嗜好に関連する一連の投稿に出てきたのだが、なかなか日本語に移しにくい。“習得した嗜好”とすれば言葉どおりだが、どこか散文的過ぎてちょっと違うようにも思う。Rain Dogs はセールスもかなり好調だった(のを、自分が当初聴きにくかった経験から意外だと感じたのを憶えている)らしいので、Tom に失礼だろうが、おそらく彼の音楽はこの“acquired taste”に属しているような気もする。そして私自身は、冒頭書いたとおり、Tom が作る相当に多様な音楽のすべてを楽しめるほどこの taste を acquire できていない。

Frank と Matilda と "Waltzing Matilda"

"Tom Traubert's Blues" には、リフレイン部分でオーストラリアの非公式/第二の国歌として世界的に知られる "Waltzing Matilda" の旋律が引用されている。往年のラジオ少年には、同国からの海外向け放送 Radio Australia のIS(Interval Signal, どの局の電波かリスナーが同定しやすくするために放送開始前に流される特徴的な短い音。海外向け(短波)放送でよく用いられ、多くは各国を代表する音楽を使用)で耳なじみのあるメロディだ。

私も Radio Australia を通じてこの曲を知ってはいたが、"Waltzing Matilda" には実にさまざまな伝説や逸話があることを、今回ちょっと調べてみて初めて知った。この曲の標題自体は、放浪者が身の回りの品物を持ち運びに便利なようにまとめて入れる頭陀袋様(?)のもの(matilda)が、さまよい歩く彼の背中で踊るように揺れている(waltzing)様子を表しているらしい(ここまではよく知られている……と思う)。第二の国歌に擬せられるのは、「豪州の広大で豊かな国土を既成の権威に執われることなく自由に行くさまがオーストラリアという国のイメージにふさわしい」(豪州国立図書館(National Library of Australia)の「Who'll Come a Waltzing Matilda with Me?: Meaning」 冒頭、趣意)からだそうだが、歌詞には古いオーストラリア英語のスラングが頻出し、その背景にはさまざまな寓意がこめられ、あるいは看取可能なようだ。

いっぽう、"Waltzing Matilda" から Tom が旋律を借りた "Tom Traubert's Blues" の歌詞もまた謎に満ちている。歌詞全文と詳しい注付きの解読が、オランダの Pieter Hartmans さんの手に成る驚くべき Tom Waits ファン・サイト Tom Waits Supplement に出ている(サイトのナヴィゲイションはブラウザ窓最下段に積み上げ式に出る。トップから入って Lyrics → Search by Album または Search by Title から曲名クリックで到達(フレイム形式)。念のため、当該ページはこちら)。

歌詞には、“俺”(I = 標題の Tom Traubert??)、その“俺”から「明日また会おう、ちょっと小銭を貸してくれ」と話しかけられる Frank、「〔おそらく比喩的に〕被告とされ、100人くらいは殺している」Matilda という女性、「胸を突き刺してくれ」と“俺”が頼んだことがあり、〔刺す代わりに?〕シャツの胸元を切り裂いてから「その短剣を窓明かりの下で埋め〔てくれ?〕た」“あんた”(you = Frank??)などの人物が登場する。場所は「誰も英語を話さない」「たくさんの兵士たちがいてうんざりする」ところ(酒場?)で、場末にあることは「何もかも故障している」「はぐれ者の中国野郎」「ストリップ小屋の姐ちゃんたち」「街路掃除夫たち」「駐車したままのタクシー」などの点描を通じてわかる。“俺”は「そぼ濡れた靴」「血とウィスキーの染みがついたシャツ」をまとい、「ぼろぼろの古ぼけたスーツケースと/癒えることのない傷」をもって、夜に暮らす人々にさよならを言いながら「どこかの安宿」へと向かう。

上掲 Pieter さんの解読によれば、とどのつまりこの曲は不斉合(illogicalness)で、"Waltzing Matilda" が湛える流離のイメージ・Tom 自身の最初の欧州ツアーでの海外滞在経験・ツアー先のコペンハーゲンで出遭った Mathilde Bondo という女性ミュージシャンとの一夜・Tom 自身が出かけてみたロサンジェルスどや街のイメージ、そして架空なのか誰にモデルを取ったものかまったくわからないミステリアスな Tom Traubert という、いくつかの想いや体験が混じり合ってできているのではないか、という。また、Pieter さんの解読では確たる根拠がないとして否定されているが、ヴェトナム戦争にまつわる側面もあるのではないかとも言われているようだ。もうひとつの Tom Waits に関する充実した(公式(??))サイト Official Tom Waits にある歌詞辞典には、「"Waltzing Mathilda(sic)" はヴェトナム出征兵士の間で使われた「ヘロインを射つ」を意味するスラングか?」とも出ている。

曲の標題に出る Tom Traubert という名前は、それが Tom の意図かどうかは別として、Tom Waits + troubadour(吟遊詩人)を連想させるのは、私の勝手な思い入れか。あるいは、この曲中の“Frank”と同一人物なのか不詳だが、Tom の Swordfishtrombones (1983)・Rain Dogs (1985)・Frank's Wild Years (1987) の3枚のアルバムを、Frank を主人公とした Frank 三部作として考察する論文を書いた人までいる(著者:Curtis H. Hayes さん、英文。これについては上掲「Official Tom Waits」のリンク集で知った。〔04年7月5日追記〕なお、この Hayes さんの論文中では "Tom Traubert's Blues" に出る Frank への言及はない)。文字通りの今更ながら、Tom Waits の音楽世界はどこまでも深いのだなと驚く。この人は本気だ。

結局、この曲の歌詞は読み切れない。Tom 自身は、長らくライヴでこの曲をトリに使っていたそうで、演奏前に「この曲は外国に行って嘔吐する歌」としばしばアナウンスしていたようだ。何にせよ作者本人が「書いてレコーディングはするけど、それきりで二度と歌わない曲もあるし、毎晩歌って何を意味してるのか解明しようとする曲もある。"Tom Trabuert's Blues" はそうした曲のひとつだ」と言っている(上掲 Tom Waits Supplement のこの曲の歌詞ページ)。一貫性を欠いてバラバラの断片の寄せ集めのまま、あるいは重層的なままでいいのだろう。この歌が場末について、酔いと放浪と夜について、"down and out" について歌い、そこからどこかへ向かおうとしているのはわかる。

本物のどん底に直面した経験はおそらく私にはない。もちろん、この先にもそんなことがないことを願うが、Tom Traubert's Blues を聴いていると、自分が否応なくはまり込んだ過去の遣り切れない経験をいくつか思い出す。そして、澄んだ響きのストリングスをバックにドラムレスでピアノを弾きながら、たぶんどこかで地獄をみた経験をもつに違いない Tom が「さあ行こう」と自分に直接語りかけてくれているような気がする。

〔04年7月5日追記〕本稿公開当初、上述のとおり私はこの曲を冒頭に収めるアルバム Small Change を持っていなかったため、歌詞については Official Tom Waits 所掲のものに依拠していた。その後アルバムCDを買ってきたので、印刷された歌詞を改めて読んでみたところ、Official Tom Waits 所掲で“Mathilda”と "h" を加えた綴りは、CDインナー・スリーヴではすべて“Matilda”と "h" なしになっていた。慌てて上掲 Tom Waits Supplement 所掲のもので再度確認するとこちらも "h" なし。どうやら "h" なしの“Matilda”が正しいようだ。お詫びします。当該箇所の表記をすべて訂正しました。

〔04年7月5日さらに追記〕このアルバム Small Change は、スリーヴ記述によれば「すべて直接、2トラック・ステレオ・テープに録音」(原文:Recorded complete and direct to 2-track Stereo Tape)、つまりはいわゆる一発録りということか。恐るべし……。

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……単純に、気に入った一曲について書こうとして、またしても別のどこかへの入口に来てしまった。Tom Waits のアルバムは、Rain Dogs を除いてきちんと聴いたことがないものばかりだ。またCDを買いに行こう。

  • Tom Waits については、本文で挙げた「Tom Waits Supplement」がおそらく最も詳しい。情報の量も圧倒的だし、出典その他も明記されていて一級の資料的価値をもつ。こんなファンがいる Tom は倖せだと思うし、私のような中途半端野郎にもありがたいことこの上ない。ディスコグラフィ・ライヴ履歴はもちろん、公刊されたインタヴュウや放送メディアでの Tom の発言記録・歌詞とその解読・Tom に関する書籍リスト・Tom その人にまつわる逸話……などなど、大変な労作。

    同じく本文で参照した「Official Tom Waits」も充実している。個人的には、ライヴ会場や街中で実際に Tom に出遭った人たちから寄せられた「Sightings and Stories」の一読をぜひお薦めしたい。爆笑したりしみじみしたり。

  • Marinko Matura さん撮影、Tom Waits の印象的な写真の数々:「TOM WAITS: Photographs by Marinko Matura」

  • オーストラリア民謡 "Waltzing Matilda" については、上掲 National Library of Australia同曲に関するウェブ展示で豊富な一次資料が見られる(いくつかのヴァージョンの試聴も可能)。Tom が引用しているのは「[You'll come a-]Waltzing matilda, waltzing matilda, you'll come a-waltzing matilda with me」の部分だが、バッキングでは原曲前半一部の旋律もストリングスで演奏されている。

  • Tom はむろん俳優としても知られ、自身のステージでも演劇的な要素を取り込んでいるようだ。上掲の Tom Waits に関するサイトにも詳細な情報が出ているが、簡潔な Tom Waits 出演映画紹介として「Tom Waits: A true character」(Chicago Tribune 紙、John D. Thomas さん執筆、04年5月30日付)。私自身は Jim Jarmusch の Down by Law を観た程度の経験しかない。

  • 以上は英文だが、日本語で読める真正 Tom Waits ファンによる充実したサイトもある。Kido Ryo さんの「Downtown Train: Tom Waits......Unofficial Fan Site」。日本語で何冊か Tom に関する本が出ていたのも知らなかった(同サイト「Books in Japan」のページ参照)。

    また、そちらからリンクをたどって ODA さんの HAVE MERCY 内、「Music」から「TOM WAITS」で「Tales from Underground — Tom Waits」へ。どちらのサイトにも詳しいアルバム評など情報多数。

    〔04年7月5日追記〕Kido Ryo さん・ODA さんお二方からリンクについて快諾いただいた。改めて記して御礼申し上げます。

  • 掲げた画像は、米国シカゴに実在するレストラン/居酒屋を撮影した「Rock Bottom」と題する作品。Tom の何枚かのアルバム・カヴァに印象が似ているし、“どん底”という店の名前や構えといい、光の具合といい色調といい、この曲の雰囲気にピッタリではないかと。撮影は jefta さん(リンク先は同氏ポートフォリオ頁)、画像でいつもお世話になっている stock.xchng 所掲。縮小して使わせていただいた。記して感謝します。

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