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ebtg と雨音

Rainy Day by andreasl

蒸し暑いばかりでほとんど空梅雨という感じの今月の天気だが、Everything But The Girl (ebtg) の最後のアルバムになりそうな危惧を抱かせないでもない(後述)コンピレィション、Like the Desert Misses the Rain (2002) には、SE(sound effect)として雨音をリミックスの過程で加えたと思しき曲がいくつか収められている。新譜がいつまで待っても出ず、半ば業を煮やしてリリースから数カ月後に渋々買っ(てしまっ)た、ほとんど発表済みの曲ばかりを集めたアルバムだ。それまでもこの二人が作るアルバムでしてきたのとまったく同様に、飽きるまでくり返し聴き、しばらく遠ざかってはまた飽きるまで聴く。そのサイクルをすでに幾度か反復した。だが長らくこのSEには気づかないままだった。どうやら雨音を勝手に自分で補って耳を傾けていて、実際に加えられたSEに違和感を全然感じなかったらしい。

ebtg を聴いていると、なぜか雨の情景を思い出す、それもあまり規模の大きくない、雑踏するほどに人はいないが寂れているわけでもない街の。街を思うのは彼らの音が程よく洗練されているためだろうし、いつも背景で聞こえているような気がしてしまう空想のなかの雨音は、ギターのアルペジオやまれに使われるピアノの単音、生音か電子的なものかを問わずハイハットやシンバルが規則正しく刻むリズムのせいかもしれない。

Tracey Thorn と Ben Watt の同い年デュオ(いつの間にか夫婦になっていた)、雨がちな気候の英国イングランド出身、イギリスならどこにでもいそうで実際どこにでもいる典型的なアングロ・サクソン的風貌。それでも音楽の才能は独特だ。カヴァの意匠も音も、アルバムごとにあざといほど大きく変えてきた。変わらないのは、ほぼ色恋沙汰にまつわる気持ちの揺れ動きを描いたものばかりと言っていい歌詞のテーマと、Tracey の歌声だ。

惚れた女#2

以前、Joni Mitchell の Travelogue についてふれた拙稿で、「惚れた女」「結婚したい」などとたわけたことを書いた(本人はそれなりに真剣なのが一層たわけている(苦笑))。もう書いてしまった勢いを借りてここでも再び呆けたことを言うと、私にとって Tracey Thorn は、Joni を本命とすれば対抗だ。Tracey が Ben と組んで ebtg になる前、ソロで出した A Distant Shore (1981) からもう20年以上も私の片想いは続いている。

……とは言っても、今のところ1作だけで終わっている Tracey のソロ・キャリア以前の Marine Girls や、彼女が作曲やヴォーカルで大幅に協力した(らしい)Massive Attack のアルバムなどは未聴だから、中途半端な惚れ方であるのはいつものとおりなのだが。

Tracey Thorn: A Distant Shore

そもそも何を通じて知ったのかもう思い出せないのだが、私が Tracey を最初に聴いたA Distant Shore は、ほぼ全篇アコースティック・ギター1本と Tracey の歌声だけで構成された "minimalist"(ebtg 公式サイトのバイオグラフィでの表現)なアルバムだった。ギターの録音は粗略で(想像するに、マイク1本で拾った音をアンプに通したものか?)、音のニュアンスがほとんど飛んで失われてしまっている。ヴォーカルとギターを束ねて丸ごとかけたような大雑把なリヴァーブも、伝説的な Elvis Presley のデビュウ録音よろしくと言いたいくらい、風呂場の反響具合と大差ない。Tracey の歌い方も客観的にみればけっこう平板で陰影に欠ける。そういう意味ではかなり残念な作りなのだが、このアルバムのそうした欠点を考慮しても、女性ヴォーカルにしては太く低めの、しかも派手すぎない艶のある Tracey の声は、一聴して忘れられない印象を残した。ほとんど生理的なと言いたいくらいの心地よさ……(もちろん使ったことはないのでわからないが)たぶん習慣性の強い麻薬に似ている。

このソロ・アルバムを聴いて、自分のなかで Tracey の歌声に向けた偏愛は決定的になった。あとは ebtg を Tracey と組んだ Ben Watt が、Tracey の揺るぎなく地に足を着けたヴォーカルの背後で音や編曲を如何に(表現は悪いが)いじりまわし、バンド全体として出す音をころころ変えようと、正直なところ聴いているこちらには取るに足らないことに思え、ほとんど関係がない。Like the Desert... には "Tracey in My Room" というタイトルの DJ ミックスが収められているが、たぶんこの DJ も、そして何より Ben Watt 自身も、Tracey の歌声がもつ麻薬成分にやられた人にちがいない。“僕の部屋に Tracey が来て歌ってくれる……”、それだけで十分なくらいに。

Ben にとっての Tracey

検索エンジン経由で、Tracey と Ben へのインタヴュウを含むラジオ番組のアーカイヴを見つけた。オーストラリアの公共放送 Australian Broadcasting Corporation (ABC) の国内向けラジオ ABC Radio の Triple J(音楽ワイド(?))という番組で放送されたこの特集は、どうも元々はもっと長尺だったようだが、残念ながらウェブ上では4分割された7分強の抜粋しか聴くことができない。そのうちの3本目、「Tracey and Ben's relationship」(音源ファイルへリンクを直接張ることはやめておきます。要RealPlayer)で Ben はこう発言している(発言を文字に起こしたものが今回は見当たらないので、念のため私の耳で聞き取れたかぎりを付す):

「……〔僕はどちらかというと音楽に没頭するタイプなんだ〕、寝る前に音楽について考え、目が覚めても考えているような。一方で Tracey は、日常の半分の時間は彼女がバンドをやっているとは誰も気づかないくらいで、音楽のことを何週間もすっかり放っておくことができる。それでもひとたびやる気になれば、彼女は完全に集中できる。いい音楽がどんなものなのか、彼女にはすぐにわかる。僕にとって彼女はありがたい編集者のようなものかな。スタジオ入りすることに決めたら、とてもクリエイティヴになれる。

You know, I tend to get to bed at night thinking about music and I wake up thinking about it, and... I mean half the time you'll never know Tracey is in a band, I mean she can really switch it off for[?] weeks on ends. And yet, when she decides to kind of engage with it all, she's just totally there, you know.... She knows what sounds good. So, she is like a great editor, for me. You know, the day when she does[?] come down to studio it's really really productive....

この Ben の発言を参考にするかぎり、どうやらこの夫婦にもまた「妻の掌のうえで踊る夫」の図式が当てはまるらしい。Tracey のヴォーカル・トラックを録り終えたら Ben がやりたい放題バックの音を細工して最終形に仕上げていくのでは、というこちらの想像は、事実に反する単なる思い込みに過ぎなかったようだ。もちろん、この番組抜粋の後半で Tracey は「二人とも音楽を作っているから、お互いがどんなところで行き悩むかよくわかっているし、それだからこそお互いに助け合うことができる」(趣意)と言ってはいる。妻の鑑と呼ぶべきか(笑)。

Electronica 導入以前/以後

(こうしてちょっと調べてみるまで全然知らなかったのは Tracey 中毒を自認していた身としてはまことに恥ずかしいが)Ben は1992年に致死率の高い自己免疫系の異常という大病を患い、ebtg は彼の完全恢復まで実質的に活動休止を余儀なくされていた由。この闘病体験と、その後の Tracey の Massive Attack とのコラボレーション(1994年頃)、さらに1996年にDJリミックスを施されたことで突然世界中でヒットした "Missing"(原曲は Amplified Heart (1994) 所収)などが、それ以前の生楽器主体のバンド・サウンドから、電子楽器(リズムも含む)を大幅に取り入れた音作りへと移行する背景をなしているようだ。Ben 自身、上掲 ABC Radio でのインタヴュウでこれらの経緯をまとめて「言ってみれば ebtg にとっての紀元前/紀元後みたいなもの」(趣意)と言っている。

ただ、この“electronica 紀元”より前の時点でも、ebtg はジャズ風・管楽器主体のビッグバンド・ボサノヴァ風・イージーリスニング今様ポップス風など、さまざまなスタイルを採って Tracey のヴォーカルを聞かせてきている。それぞれに白眉があり(個人的にはビッグバンド編成の Baby, the Stars Shine Bright (1986) がかなりつらいが)、Tracey中毒の自分にはどれも捨てがたい。そうした音楽スタイルの多様な変遷を可能にしたのも、やはり Tracey の歌声があったからこそだろう。

でも、もしこの先ライヴで彼らの演奏を聴く機会があるなら、聴かせてほしいのはやはり Ben が弾くアコースティック・ギターだけをバックに Tracey が歌うスタイル……になりますか(済まない> Ben)。

ebtg の“未来”

ebtg は、Temperamental (1999) 以来オリジナル・アルバムを制作していない。たしか昨年末くらいには、彼らの公式サイトに設けられた掲示板への入口(だったと思う)へ飛ぶと、ポップアップした窓で「もう長年オリジナル・アルバムをリリースしていない。Tracey が全然やる気にならないと仮定した場合でも、スタジオ入りして新しいアルバムを作るべきか」という、ちょっと悲しくなるようなアンケートを取っていた。私がそれを目にした時点では、「無理してでも作れ」「やる気になるまで待っていても構わない」の選択肢への投票は拮抗していた(今はこのアンケートは撤去されている。最終結果についてアナウンスはなかったのではないか(未確認)。また掲示板も一旦初期化に近い状態に“整理”されたようだ)。

その Tracey は双子の子供を育てることに専念していて、一方で Ben は Buzzin' Fly Records というレーベルを創設し、それ以前には自分も時々DJを務めるクラブを運営していたらしい。ebtg 公式メイリング・リストで流れてくるアナウンスは、Ben のDJとしての仕事に関するものばかりだ。Tracey に惚れている私は、彼女が子育ての心配をせずに歌える時期が来るまでいつまでも待つつもりでいる。そういうファンは世界中に大勢いると思う。

反面、ミュージシャンである彼ら二人には、デュオとして新たに音楽を創るまでの間隔が空けばあくほど、かかる精神的圧力も重くなるだろうし、音楽ビジネスを生業としているという意味では、セールス面でのデメリットも少なからずあるだろう。ebtg の将来にいささか不安を覚えるゆえんだ。どうか、演奏する二人、そして我々聴く側のどちらにとっても満足のゆくようなかたちでの“カムバック”がいつか実現しますように……。

またまた駄文をたっぷり連ねたわりには、何について書いたのか曖昧にぼやけたものになってしまった。ebtg の魅力は、Tracey のワン・アンド・オンリーな声と歌唱のうまさとともに、彼らが歌う歌詞にもあると思う。某サイトには「ebtg は同性愛者にも広く支持された。歌詞の内容が性別を問わずアピールするから」とあったのにはちょっと驚いたが、中年真っ只中の年齢層に入ってしまった私ですら、ebtg の歌詞を追うといろんな想いが甦ったり駆けめぐったりするのは確かだ。本稿でも冒頭画像に並べて沁みる歌詞の拙訳を掲げるつもりだったが、結局ひとつに絞り込めず、本文中で彼らの詞に焦点をあてることもできなかった。

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20年を超えるキャリアがあり、オリジナル・アルバムも累計10枚出していて“それなりの数”以上のファンもいると思うのだが、ウェブ上には ebtg に関するまともなリソースは案外少ない。以下、いくつか挙げる:

  • まず、ebtg および Ben に関連する公式サイト:

    • 「ebtg WEBSITE」。早くも入口からしてわかりづらいが、画面右側「come in」にアンカーあり。2003年4月9日最終更新となっていて、実際それ以降はほとんどサイトの内容に変化はないようだ。サイト・トップから懸念されるとおり、ナヴィゲィションもきわめてやりにくい。閲覧しやすいようにタビュレイトされたディスコグラフィはない。また歌詞は一切掲載されていない。

      目次代わりに、バンドとしてのバイオグラフィBen の ebtg 以前Tracey の ebtg 以前。また、アルバム・リスト、さらにシングル・リスト

    • ソロで二人が別箇に、学生時代に契約したレコード・レーベル「Cherry Red Records」。Cole Porter の名曲 "Night and Day" をカヴァした ebtg 初のシングル、Ben のソロ(実質的には Robert Wyatt との共作で、実に静謐な雰囲気をたたえた傑作(と個人的には呼びたい)North Marine Drive (1982)、それに本文中でもふれた Tracey の A Distant Shore をオンラインで注文できる(ようだが、これらは CD での再発当時に輸入盤として日本にも入っていた)。

    • 曲の出版権や原盤権を持っているのか、マネジメント事務所なのかよくわからないのだが、"Cherry Red Music" がもうひとつの会社と合併して作った「Complete Music」。ここに掲載されている ebtg の Biography は、ebtg 公式サイト所掲のものとほぼ全同なのもよくわからない。

    • 上掲、Ben の新しいレーベル「Buzzin' Fly Records」、同レーベル所属のDJたちによるミックス試聴可。および彼が開いていた在ロンドンのクラブ「Lazy Dog」(2003年5月で閉鎖とのこと)。

  • 上述のとおり、ebtg 公式サイトでは歌詞は調べられない(もっとも、外盤でもアルバムにはほとんど歌詞が印刷されていたと思う)。網羅的ではないが、「Lyrics on Demand: Everythiing But The Girl」が、私がみたなかでは最も多数を掲載し、ひどい誤りもほとんどないようだ。

    なお、このサイトはいつも拝読している noppo さんのウェブログ noppo's blog の2003年6月10日付エントリ「洋楽の歌詞教えます」に寄せられた、「ピポ」さんという方のコメントから知った。記してお二方に感謝します。

  • 本文で引用させてもらった豪州 ABC Radio の音楽番組 Triple J での ebtg 特集ダイジェスト音源(再掲)。2003年2月13日付。

  • 比較的まとまったレヴュウを2本(英文):

    • レコード・ガイド本をオンライン化したものらしい(ただしオンラインで更新継続中)Trouser Press 所掲、「Everything But The Girl」Temperamental (1999) までの ebtg の活動記録および簡にして要を得たアルバム/シングル評。

    • 米国サンフランシスコに拠点を置くネット・メディア(?)Salon.com 所掲、Amanda Nowinski さん執筆、1999年9月28日付「Being Everything But the Girl」(2頁)。Ben への電子メイルによるインタヴュウ。主に彼と Electronica やDJ稼業との関係について。

  • 〔大変充実した ebtg の日本語ファン・サイトがあります。現在、本稿からのリンクの許諾をお願いしているところです。検索エンジンで「"Everything But The Girl"」を検索語にしても上位に出て、すぐにわかります〕

    〔04年6月25日追記〕……と本稿公開当初書いておいたが、即日リンクをご快諾いただいた。ありがとうございました。Yuko Nagai さんの Café Bleu 内、「Everything but the girl Fan Site in Japan」です。国内盤と外盤双方をリストアップした詳細なディスコグラフィおよびアルバム・シングル評を始め、ebtg に関する豊富な情報が公開されている。「Everything But The Girl」という一風変わったバンド名命名にまつわる噂(?)など秀逸。未見の方はぜひ。

  • 毎回末筆ながら、本稿冒頭に掲げた画像は今回も stock.xchg 所掲、andreasl さん(こと Andreas Lunde さん、リンク先は同氏撮影のポートフォリオ)による「Rainy day」を縮小して使わせていただいた。記して感謝します。

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Tracey Thorn 1曲だけ新規吹き込み?
ebtg 公式サイトが完全リニューアルされた。どうやら新リミックス回顧盤 Adapt or Die: Ten Years of Remixes のリリースにタイミングを合わせたようだ。ページ左上の「or ENTER HERE」から要 Flash でサイト内へ。この“新譜”からのものと思われる音源が自動的に流れる。大
from Night rain, in winter... | at 03:19 on 2005/03/19 |
Buzzin'fly Volume2 4月5日いよいよ発売!!
はじめまして!! ぷらい丸といいますぅいよいよ新作4月5日発売ですね♪待ちながらbuzzin'fly1のDEEP HOUSE聴いてましょう~ぷらい丸も毎朝聴いてます!!
from ヤクオク情報系出品物暴露/インターネット儲け情報・裏情報 | at 11:22 on 2005/03/31 |
ebtg リミックス回顧盤“新譜”続報
昨年(2004年)末に「そういえば」と思い出して更新通知サービスに登録しておいた Everything But The Girl (ebtg) 公式サイトが昨夜(2月3日)あたりにアップデイトされたようで、画像ファイル1枚のみになっていた。以前の
from Night rain, in winter... | at 01:39 on 2006/08/04 |
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