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Battersea 発電所のある風景

Battersea 発電所

この「スヌーカー・テーブル/食卓を天地ひっくり返したような」と形容されることもあるらしい印象的な建築物を初めて目にしたのは、例にたがわず Pink Floyd の Animals(1977) アルバム・カヴァだった。焦げ茶色のどっしりとした建物から天を衝いて垂直に伸びる4本の象牙色の煙突。おそらく夕刻、陰影を深めるレンガ造りの巨大な発電所の上空を豚が飛んでいる。

Animals のカヴァ写真

Animals の発表直前、英国・ロンドンの Capital Radio が6夜連続で「Pink Floyd Story」という大特集を放送した(後にNHK-FMがこの番組を丸ごと買って、立川直樹さんの進行で放送。私はこれを文字通り貪るように聴いた。カセットに録音もしたが、所在不明)。当時すでにバンドの主導権をほぼ掌握していたベイシストの Roger Waters は、同番組インタヴュウのなかで、このアルバム・カヴァの意匠についてこんなことを言っている:

〔インタヴュア:どうして Battersea 発電所をカヴァに?〕 こいつはかなり素敵な建物だと思うよ。暗鬱で非人間的で。

〔インタヴュア:写真自体も暗鬱だよね〕 そう。

〔インタヴュア:なんていうか、気を滅入らせるような、抑圧的で……〕 そうだね。

……〔略〕 えーとね、僕は Battersea 発電所が象徴している露骨で粗野なものがけっこう好きなんだ。男根のように聳える4本の煙突タワーも。“力”という概念も、奇妙な意味合いで魅力的だと感じている。

Pink Floyd Story 第6夜冒頭での Roger Waters の発言

余談になるが、このインタヴュウは特集の最終第6夜に放送された。Capital Radio は「この特集番組で Floyd の最新作を世界に先駆けて紹介する」と鳴り物入りで宣伝していたのだが、最終夜のオン・エア直前、BBC Radio One で同局名物DJの John Peel が抜け駆け(?)して全曲を放送した、という逸話はよく知られている。……といっても、私自身はそのことを知ったのはけっこう後で、他愛ないが「John Peel やるな」と、驚くべき趣味の広さを誇る、このDJである以前に何よりも音楽愛好家である人にますます尊敬の念を抱いた。

日本におけるこの「Pink Floyd Story」の放送は、確認できていないがたしか Animals 国内盤リリース後のことだったと思うので、Waters がインタヴュウで述べたことはすでに耳にしていたはずだ。だが、私はこのカヴァを見てただただ建物の存在感に圧倒されるだけだった。反面、こんな建物が本当にあるのかと、どこかで実在を疑っていた。後にロンドンでこの発電所の脇を通る列車に乗った。その路線が Battersea を通ることをまったく知らず、車窓から見えてきたときは不意を打たれた。夢中でカメラを構えて写真を撮る。「本当に本当にあったんだな」と、阿呆のようにくり返し心の中で呟きながらシャッタを切ったのを憶えている。ただ、実物のとくに煙突はかなりの威容を誇っていたが、自分で撮影した下手くそな写真に納まったこの建物全体は妙にこじんまりとしていた。今から思うと、無理をしてでも近傍の駅で降りて実物の近くまで行っておけばよかった。

Battersea“狂騒”曲

ちょっと調べてみると、この発電所は比較的最近にもニュースになっていた(たとえば BBC の2003年10月10日付「Power station plans get go ahead」)。すでに20年以上も昔、1983年に発電所としての操業を終え、しばらく無人のままで放置されていたが、発電所跡地とこの建物自体の扱いをめぐって、数奇な展開に翻弄されているようだ。

主に近隣住民たちの有志団体(?)らしい Battersea Power Station Community Group(BPSCG)公式サイト には、「History: Competition」その他のページにこの間の経緯がまとめられている。以下は、このサイトの記述、それに英国の日刊紙 The Guardian2003年9月23日付記事(Maev Kennedy さん執筆)に依っている。

マーガレット・サッチャー政権下で一気に進められた民営化政策のもと、第二次世界大戦後に国営化された英国の電力産業を再び民営化する際の資産のひとつとして、当初はこの発電所の解体と跡地の売却が見込まれていた。しかし、発電所の建物が第2級文化財(? 原文では「Grade II」。Grade listing の詳細は英国文化・メディア・スポーツ省の「historic environment: Listing」参照)に指定されたため更地での売却を果たせず、逆に建物保存の経費をまかなわねばならなくなった。これに充てる財源を捻出するため、再開発コンペが開かれ、デンマーク・コペンハーゲンのティヴォリ公園に似たレジャー施設に仕立て直すプランを呈示した、サッチャー政権お気に入りの不動産開発業者が落札。建物の外観だけを保存して中身を入れ替えるべく、1986年から実際に屋根と側壁を取り壊して、内部から発電タービンなどを運び出す工事が進められたが、1989年に中断、その後放置された。巨額の工事経費に財務的に耐えられなくなったためのようだ。

その後、この地区の再開発計画の権利は、1993年に香港に本拠を置く別の不動産開発業者に譲渡されている。上掲 BBC の記事によれば、この企業による新たな再開発プランに異を唱えた上述 BPSCG による訴訟は却下された由。まだ細部の調整と交渉が行なわれているようだが、業者側は「Battersea Power Station」(要 Flash。ちなみにこの Flash で賞を取っている。それなりに見ごたえがある)で“美麗にぶち上げている”ように、レジャー・居住・ビジネスを兼ね備えた一大コンプレクスを作りたいようだ。その一方で、上掲 The Guardian の記事にあるとおり、World Monuments Fund という歴史的建造物の保護推進を目的とするNPOからは、「Most Endangered Sites 100: United Kingdom, Battersea Power Station」(最も危機に瀕しているロケーション100選)のひとつに選出されて、将来が危ぶまれている。

まるでどこやらの国のバブル期からポスト・バブル期にかけての“ウォーター・フロント”再開発を始めとする醜態をなぞっているようだが、元はといえば経済と国力の疲弊、およびその後の“再生”は彼の国がはるかに先行している。発電所の操業停止から20年以上経過しても何処へもたどり着いていないあたり、大国の貫禄(?)と揶揄してもかまわないだろうか。

Sir Giles Gilbert Scott という建築家

欲の皮をつっぱらせた生臭い話は措いて、元々は自分に圧倒的な印象を残しているこの発電所の建築そのものについて検索を始めたのだった。設計者は Sir Giles Gilbert Scott(1880–1960. リンク先は Wikipedia 英語版当該項)。建築史はまったくわからないのでいろいろウェブ上を調べてみたが、なかなかまとまった記述を見つけられない。彼の生涯と設計した代表的な建築物を写真付きで紹介しているのは、Scott 自身が修築に関わったリヴァプールの St Paul's Church 公式サイト所掲の「Sir Giles Gilbert Scott」というページ。

これによると、Scott 家は祖父・父・息子の Giles と3代続く建築家一家。建築家に多いようだが若くして才能を現わし、弱冠22歳でリヴァプール英国国教会カテドラルの設計が入選。その後も英国国教会およびカトリック双方の教会建築に多数関わった。またゆるやかに湾曲した屋根を持つ、「Kiosk」と呼ばれる英国風景におなじみの赤い電話ボックスも彼の設計になるそうだ(この電話ボックスに関する Wikipedia 英語版の記述はちょっと異様なくらい詳しい(笑))。

彼が教会の設計に携わっていたせいもあるのか、Giles Scott がロンドン市内に設計したもうひとつの発電所、Bankside 発電所(2000年のミレニアム記念事業でテイト美術館現代館(Tate Modern)に改装された由)は「力/電力のカテドラル(cathedral of power)」と呼ばれていたらしい。また1933年に Battersea 発電所が操業を開始した際、新聞は「現代の力/動力を祀る燃え熾る祭壇(a flaming altar of modern power)」と書いたという(出典は The Vauxhall Society という Battersea 近傍を中心とした市民団体(?)のサイト所掲の「Battersea Power Station」に引用された出版物の記述)。本稿冒頭に引用した Waters の発言も、もしかしたらこうした表現を意識していたのかもしれない。

Battersea 発電所は当初2本の煙突しか備えていなかった。内装はアール・デコ調で、タービンを収めたホールにはイタリア産の大理石が敷き詰めてあったそうだ。BPSCG の「History: Heritage Building」で、円弧を描いて制禦盤が配置されたコントロール・ルームや、タービン・ホールの写真が見られる。電力需要の急増にともなって1944年からもうひとつのタービン・ホールと煙突1対の建造が始まり、4本目の煙突は1955年に完成。最初に建てられた方が Battersea A、後に作られたものは Battersea B と呼ばれ、Battersea B の内装はモダニズム調とのこと。「ひっくり返されたテーブル」に、かなりの期間は片方の1組しか脚がなかったとは。また、首都の市街地に発電所を作ることに対して、周辺住民から健康への悪影響を危惧した反対もかなりあった由。第二次大戦中にドイツから本土爆撃を受けた際には当然目標にされたはずで、実際に爆撃の被害もあったようだ。

……と、なんだか出来の悪い学生が書いた中途半端なレポートのようになってしまったが、末尾にこの「力の建築」をさまざまに捉えた写真でウェブ上で見つけた印象的な作品を、本稿標題に沿っていくつかご紹介したい(多くはプロの写真家が撮影したものであるため、もし二次利用される場合にはご注意を……というよりも、以下は自分自身の備忘です)。

そもそもの発端が Pink Floyd のアルバム・カヴァだったので、本稿のカテゴリは音楽とするほかないか。

Animals について、世評はどうやらあまり高くないようだが、かなり長い間(そこそこの)Floyd フリークを自任していた私のなかでの位置づけは、Wish You Were Here(1975)と肩を並べるか、あるいはたぶんそちらよりも若干高い。もし Floyd のライヴを過去にさかのぼってひとつだけ体験することができるなら何を選ぶかと考えると、私なら Wish...Animals を主に演奏した1977年頃のツアーを採る。

もちろん、このアルバムに収録された曲の歌詞は直截に過ぎるところが多々あるし、犬・豚・羊という類型化も陳腐とは言える。発表当時からそうした批判はあった。それでもこのアルバムで聴くことができる音の重厚さと尖り具合は格別で、とくにギターの Dave Gilmour による "Dogs" 最初のソロ、そして "Sheep"全篇での何をやっているのか俄かにはわからないフリーキーなリズム・ギターは、おそらく Gilmour の生涯を通じたベスト・プレイだと思う。

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本文中でふれた以外に、おもしろかったサイトをいくつか。

  • 先達は当然いるわけで、まさしく Floyd の Animals と Battersea 発電所(のみ)をテーマにしたサイトがスウェーデンの Joakim Nordlander さんによる「The Battersea Power Station」。本稿を書き始めた当初、ここから張られたリンクを大変参考にさせていただいた。記して感謝します。

  • もうひとつ、Animals に入れ込んだ非常に詳しいサイトがあったのだが、手許に記録が見つからない。再探索中。

  • 本稿冒頭に訳して引用した「Pink Floyd Story」のほぼ全部を、無数にある Floyd のファンによるサイトのひとつ、Neptune Pink Floyd にてストリーミングで聴くことができる。「Features Section: Pink Floyd Story」から。録音は残念ながらかなり劣化している。この番組をすべて書き起こして掲載しているのは、Floyd ファンジンを母体とする Brain Damage 。同サイトの「Interviews: PF band interviews」にある。当該部分は「Part 6」冒頭。

  • 「Battersea Power Station」を検索語にしてそこら中を探し廻っているうち、英国議会貴族院(House of Lords)の「議事録(hansard)」(1995年6月14日審議、さらに続く)に出くわした。Battersea 発電所の末期の処置について、「このとんでもなく醜くくて単調な(hideous and redundant)発電所を壊してはどうか」「諸卿、美は見る側に宿ると言うではありませんか」……などなど、ほとんどお笑いかと見紛うやり取りが交わされている。

  • 本稿冒頭に掲げた Battersea 発電所の写真は、写真でいつもお世話になっている stock.xchng に寄稿された loungefrog さん撮影(リンク先は同氏ポートフォリオ先頭)の「train tracks」を、トリミングして使わせていただいた。記して感謝します。

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