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スタニスワフ・レム『ヨン博士の航星日記』

映画化もされた『ソラリスの陽のもとに』で(たぶん最もよく)知られているポーランドの作家レム(Stanisław Lem, 1921–)の、ポーランド語原書からの新訳を含む選集『スタニスワフ・レム・コレクション』6巻が、国書刊行会から出るという。圧倒的な情報量とチクチク刺戟がくる(笑)すっきりした文体で毎日どんどん更新される、優れたウェブログ「キャラメルママblog」の04年5月13日付エントリ「スタニスワフ・レム・コレクション(全六巻)は、いつの間にか夏まで出ないことになってるんだ。。_| ̄|○」経由で。またまた知りませんでした……。『SFマガジン』2004年1月号、レムの特集してたんですね(汗)。刊行開始が今年夏以降にずれ込むのは、かえって自分にとっては僥倖かもしれない、と無理やり喜んでおこう。旧聞ばかりです、拙ブログ(トホホ……)。

レム関連リソース

この選集の収録作品については、キャラメルママさんもリンクしていらした版元みずからの案内を見ていただくとして、そういえばレムはけっこうな高齢のはずだが(情けない認識だな>自分。もう物故されたかと実はなんとなく思い込んでいたらしい)と思って検索したら、ご本人の公式サイトがあった。以下、レムに関わるウェブ上リソースを備忘のため列挙:

  • 作家ご本人の公式サイトは、名づけて「Solaris」。ポーランド語版と英語版との2つ。比べるとレムの母語版のほうが2004年1(?)月最終更新、英語版は2003年3月更新で、1年近い開きがある。FAQ を見ると、作家の秘書とご子息とによって保守されている由。内容も各国語に翻訳されたレム作品のビブリオグラフィや表紙画像(日本語版も一部はあり)、生い立ち、多数の自筆線描イラスト……などなど情報多数。

    この公式サイトを読んでいて、レムが Science Fiction Writers of America という米国SF作家の団体(?)から名誉会員籍を剥奪されたり、レムを共産主義の政治的陰謀の手先として告発する手紙を Philip K Dick が FBI 宛てに出していたり、といった(いずれもFAQにあり)、米国とドンパチした経緯があったことを、恥ずかしながら初めて知った。

  • レムの作品と生涯について手際よくまとめられた評論:「The Modern World」(他に Samuel Beckett, Umberto Eco, Kafka などについての夥しいリソースあり。要再訪)のなかの、Nathan M Powers さん執筆 Stanislaw Lem

  • Matt McIrvin さんの「VITRIFAX: The Writing of Stanislaw Lem」。作品ごとの短め(数百語程度)のレヴュウが主な内容。英語圏(筆者は米国在住らしい)におけるこの作家の受容がかなり悲惨な状況にある(ポーランド語原著からの英訳はほとんどなく、他言語版からの重訳が多いことなど)ことを述べたイントロが興味深い。

  • Mike Sofka さんの「Stanislaw Lem」。作品リストのほか、レム原作のフィルモグラフィ、ウェブ上のレムに関する評論へのリンク集など。

  • AMEQさんの手に成る「翻訳作品集成(Japanese Translation SF/Mystery/Horror List)」のなか、日本語に翻訳されたレム作品の詳細なリスト。AMEQさんのこのサイトは、驚くほど多数の海外作家の邦訳本についての、素晴らしいビブリオグラフィです。

レムとのごく個人的な“つきあい”の話

キャラメルママさんの上掲エントリへのコメントでもふれたのだが、以前講談社文庫でレムの短篇集2巻が出ていた。買おうと思ってのんびり構えているうちにあっという間に絶版になってしまったはずで、キャラメルママさんがその後コメントで『すばらしきレムの世界1・2』という表題だと教えてくださった。上掲AMEQさんのリストに依ると刊行年時は1980年10月・12月とのこと。私はこれを偶然覗いた古本市で、たしか今から20年近く昔に第1巻のみ入手することができた。売値はべらぼうではなかったが、2巻揃いではないため買うのをずいぶん逡巡したことを憶えている。最後に恩師の教え「本は借金してでもその場で買え」を墨守し購入したが、その後いまに到るまで、古書店店頭ではこれの2巻目のみのバラ売りにも1・2巻揃いにも遭遇できていない(私はネット・オークションを利用したことがありません)。

〔04年5月16日追記〕本稿「続きを読む」所掲部分に、事実誤認による誤った記述がありました。お詫びします。詳細は改めてご覧いただければ幸甚です。

レム作品を最初に読んだのは、私の場合、本稿の標題書『ヨン博士の航星日記』(袋一平訳、集英社ジュニア版世界のSF 15、1970年3月。データは上掲AMEQさんのリストに依る)という子供向けのものだった。所有するに到った本はほとんど売ったり捨てたりしたことがないし、後述のとおり大切な本なので、これも段ボール箱に入れてどこかにしまってあるのだろう。

当時小学生だった私は、同じクラスのN君とけっこう仲が良かった。N君は、その年齢にしてはちょっと理窟っぽいところがあり、時々はその長広舌にこっそり辟易しつつ、「物知りだし、いろんなことを考えてるなあ」といつも感心していた。たしか私が彼と同じクラスになったその年、N君はお父さんを病気で亡くしていた。

N君と同じクラスになった学年の終わりに、私は父親の仕事の都合で一旦市内で転居して転校し、さらにそのわずか数カ月後、東京に移ることになった。最初の転校後の数カ月は、同じ市内だったがちょっと離れていたため、ときどき葉書でやり取りしていたのだと思う。しかし子供は現金といえば言える。最初の転校先の新しい学校に慣れて友達もでき、数カ月でもどんどんお互いのつきあいは薄くなっていく。

ところが、いざ二度目の引越しで東京へ移る数日前になって、N君が突然私の家をわざわざ訪ねてきてくれた。私はその時何をしていたのか、家には居なかった。母親が応接したらしい。彼は、たぶん亡くなったお父さんがおそらく子供の頃から大切にしていた(ものではないかと思うのだが)、今考えれば二眼レフの、当時でもかなり時代物に思えた大きな壊れたカメラと、レムの『ヨン博士の航星日記』を、別れに際して私宛ての贈り物として届けに来てくれたのだった。

この集英社刊行の子供向けの本は、レムのスラップスティック短篇シリーズ物「泰平ヨン」あるいは「宇宙ホラ男爵」の何話かを収めていた。それらは文字通り爆笑もので十二分におもしろかったのだが、今でも鮮明に記憶に残っているのは、このドタバタとはまったく趣が異なる「きみは生きているか」(おそらくオリジナルは「ミスター・ジョンズ、きみは存在しているのか?」)のほうだ。人工脳の移植手術を受けてサイボーグと化したジョーンズ氏の「帰属」をめぐって、サイボーグ化のパーツを開発・斡旋・移植した企業と、ジョーンズ氏および彼の弁護士とが、法廷で丁々発止争う様を描く。その過程で、自己同一性や自我とはいったい何なのか、議論がどんどん錯綜していく。

この短篇は、後に『Mind's I: Fantasies and Reflections on the Self and the Soul』(1981, リンク先は Wikipedia 英語版、当該項目)という、(『ゲーデル・エッシャー・バッハ』の)Douglas Hofstadter と 人工知能論・認知科学/意識論の大物 Daniel Dennett の二人が編纂した、知識論・自我論・計算機科学を主題とする著名なアンソロジーにも収められることになる〔直後の段落の04年5月16日付追記をご覧ください〕。しかし読みやすい翻訳だったおかげか、私が読んだ子供向けの集英社版でも、この話は小学生の幼い脳みそに目くるめくような興奮を与えた。幾度読み返してもよくわからない。でもおもしろい。

〔04年5月16日追記〕直前の段落でレムの「ミスター・ジョーンズ……」が『Mind's I』に収められていると書いているが、完全な事実誤認でした。伏してお詫びし、訂正します。当該の短篇は収録されておらず、正しくは、全27章から成る『Mind's I』には、レムによる以下の3篇の短篇が収録されています:

  • 第6章:「The Princess Ineffabelle(王女イネファベル)」

  • 第18章:「The Seventh Sally or How Trurl's Own Perfection Led to No Good(第七番目の旅)」

  • 第19章:「Non Serviam(我が身、僕にあらざらんことを)」

この事実誤認は、『Mind's I』にレムの短篇が収められていた記憶があり、かつ同書が扱うテーマと「ミスター・ジョーンズ……」とがかなり重なり合っているため、自分の頭のなかで短絡して結びついていたことに起因しています。本稿執筆時に参考にさせていただいた上掲AMEQさんのビブリオグラフィを丁寧に拝見すればすぐに判明していたはずのことで、誠にお恥ずかしいかぎりです。

なお、このアンソロジー(目次はウェブ上ではたとえば [Mind's I Table of] Contents(リンク先は「2think.org」で、ここもなかなかおもしろそうなサイト)にあり)は邦訳もされている。一時絶版に近い完全な品切れ状態だったが、1992年に復刊を果たした(『マインズ・アイ』(上・下)坂本百大ほか訳、TBSブリタニカ)。まだ在庫があるようです。ただし上・下巻合わせると7000円を超える値段。原書は2000円強で amazon などで容易に入手可能。〔04年5月16日追記終〕

本稿に落ちはない。そもそもこんなに長い話になるはずではなかった。N君、いまどうしているだろうか。いつの間にか連絡先もわからなくなってしまった。あのプレゼント、本当に嬉しかったよ。直接お礼が言えなかったのが今でも心残りです。レムは私にとっては speculative fiction の最高に刺戟的な書き手の一人であり続けるだろう。

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