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deJune: "deJune" [self-titled]

deJune: deJune [self-titled] (Alg-a ALG012)

抑えた緊張感が全篇を静かに満たしている。その抑え加減がじつに絶妙で、聴き込むうち、深みと細部にどんどんはまり込んでいく気がする。

去る(2005年)11月末にリリースされた(らしい?)7曲・ほぼ1時間弱のこのデビュウ作 deJuneAlg-a ALG012)は、仮にジャンル分けするならば、おそらく“ポスト・ロック風”ということになるだろうか。全曲インストゥルメンタルで、主な音はギターとさまざまな電子音。ギターの音はディレイを通されて輻輳し、またほとんどの曲で深めのリバーブがかけられる。電子音はドローン様の背景音から、ノイズやその他効果音を成し、時にリズム面でアクセントをつける。

ビートなしで“持続”する

いま「“ポスト・ロック風”」と留保して書いた。一般に“ポスト・ロック”として括られる音楽では、ハイハットやその他シンバル類、バス・ドラムやスネアを或る種“規則正しく”叩いてミニマルなビートを作り、それによって曲全体を強力にドライブする音作りがみられることが多い(……と、私個人は(大して幅広く聴いているわけではないので)あまり根拠もなく思っている)。しかし、deJune のこの作品には、そうしたビートによる後押しや下支え(あるいは、ビートへの“依りかかり”)の要素がほとんどない。

例外――もっとも、7曲中の3曲なのでほぼ半分ではあるのだが――は、"d""e" それに "a" と素っ気なく名づけられた3曲だが、これら各曲でも、リズム/ビートによるドライブは主だった推進力として機能しているというよりも、あくまでリズム以外の要素と同列の働きを与えられているにとどまっている。"d" ではブラシで叩かれたシンバルが曲の冒頭から最後まで一定のパターンでリズムを刻む。"d" はドラム・セットをフルに使ったような音が入るが、オフ気味に抑えてミキシングされている。また "a" では、シンバルが曲の終結部に到ってようやくフェード・インしてくる、といった程度だ。

それでも、このリリースで聴くことができる deJune の音楽は、確固たる存在感を聴き手に与える。“ポスト・ロック”の多くの曲(実態としては、あまりにも多くの曲/バンドが、この“公式”に頼り過ぎている気もするが)に共通するリズム/ビートによるドライブは、このジャンルにとっては或る意味で避けて通れない“お約束”であると同時に、欠くことのできない文字通りの推進力でもあると思う。しかし、今作で deJune が、一聴判然とするようなかたちでそれを用いることなく、アルバム7曲全篇にこれだけのまとまりを与えることに成功しているのは、実はなかなかに大変な力業ではないだろうか。言ってみれば本作は、サウンドスケイプ/アンビエント音楽の音作りと、メロディ・ハーモニィ・リズムを具えた従来のいわゆる“音楽”との間に、絶妙のバランスで立っている。

サウンドスケイプ(soundscape)はそれなりに耳にする言葉ではあるものの、厳密にはどういうものを意味するのか、恥ずかしながら私自身はよく知らない。ここで漠然と指そうとしているのは、フィールド・レコーディングなどによる自然音を多用したうえで楽器演奏など音楽的な要素を加えて作ったサウンド・コラージュのようなものだが、そういう用法は果して適切かどうか。参考:英語版 Wikipedia soundscape の項

こうした意味で、deJune のこのアルバムは 最近の Tarentel の音/音楽(→関連拙稿1)を思わせる。最初ほぼ“典型的な”ポスト・ロックのバンドとして出発した Tarentel は、最近の一連のリリースでますますサウンドスケイプと“音楽”との融合(と言うべきか、ジャンルの境界面を意図的に攪乱しようとしていると言ったほうがよいか)を試みているように思える。本作の deJune も、それと極めて近い音を出している。あるいは、再び Brian Eno の言葉(リンク先は Enoweb, Music for Airports ライナーノート)を借りれば、明瞭なリズム/ビートがさほどなく、かつ“アンビエント風”な音が多用されているにもかかわらず、本作で聞こえてくる音楽は「無視可能」なレベル(極?  →関連拙稿2)にはほとんど入り込んでおらず、逆に全篇を通じて聴き手の注意力を逸らさない。

耳慣れた音を集めて

サウンドスケイプ/アンビエント的な音作りと、エレキ・ギターを使ったコード・ストロークやアルペジオその他で奏でるより“音楽的”な要素を巧みに重ね合わせたこのアルバムは、しかし個々の音を聞き分けてみると、新奇な音はほとんど鳴っていないことがわかる。もちろん、ギターの音は編集を加えられ、種々のエフェクトをかけられてはいるものの、主要な音色はエレキ・ギター特有の、それなりに温かみのあるナチュラル・ディストーションだ。

同様のことは、さまざまに加工・合成されたギター以外の電子音についても言える。吹きすさぶ風の音や地面をかすかに揺らすようにゆっくりと轟く低音、背景を成すアトモスフェリック(atmospherics)――こうした音は、ほとんどがそれなりに耳なじみのある音色で、言ってみれば“使途/効果実証済み”のものだ。

耳慣れたギターと電子音とを合わせたとするなら、deJune の音楽はつまらないものにならざるをえないのではないか?  これが不思議なところで、そうはなっていない(と私は思う)。彼がいわばありふれた音を組み合わせて、どうやってこうした音/音楽を作り出したのか、私には残念ながら理解できる由もない。しかし実際に聞こえてくるのは、冒頭で述べたとおりの、抑制の効いたテンションが全篇を支配する、不思議な音/音楽なのだ。

そして、奇を衒わない耳慣れた音を素材として使って、組み上げられた音楽は総体としては実に耳新しく聞こえる、という意味では、deJune のこの作品は、Labradford の、ほとんど Moog シンセと大してエフェクタを通さない地味なエレキ・ギターの音だけで創った初期のアルバムがもつユニークさに、いささか通じるところがあるように思う。

ミュージシャン

deJune の音楽が“ポスト・ロック”なのかどうかは措くとして、彼の音楽キャリアは、地元ロック・バンドのギタリストとして始まった。彼はスペイン北西部、大西洋沿岸に位置するガリシア(Galicia, 参考:Wikipedia 英語版 同地域の項)の人。ガリシアは、ケルト系の出自を誇る自治州だそうで、私はスペインに、バスク(Basque、やカタルーニャ Catalunya)のほかにもこうした独自の文化と伝統をもつ地域があることを、恥ずかしながら今回初めて知った。標記のアルバムをリリースしたネットレーベル Alg-a もまた、この Galicia に本拠を置いているそうで、レーベルは deJune の友人の一人、Isaac Cordal さんが運営している由。Cordal 氏はまた、ネットレーベルの母体となっている(らしい)Alga.com の主宰グループの一員とのこと。

deJune がギターを弾き始めたのは16歳の頃のことで、それ以来15年近く続けており、ギターが彼のメインの楽器だ。最初のロック・バンドの後、もうひとつのバンド Allgodown の結成に、同じくギタリストとして参加した。上記頁の記述によれば、Allgodown は“エモ(emo)”・バンドだった(そうだが、残念ながら本校執筆時現在、この Vitaminic という音楽/音源紹介(?)サイトは改装中で、フリーの試聴はできなくなっている)。御本人によると、レパートリーにはヴォーカル入りのものも何曲かあった由。その後、この二つめのバンドを脱退してから、deJune はソロとして音楽を創り始めた。ただし、Allgodown のもう一人のギタリストとは今もつながりがあって、共作を計画中。

セルフ・タイトルの標記デビュー作を作るのに、約2カ月(僅かに!)かかったそうだ。その間、曲作りから自分自身の出す音の録音、編集とミキシングまで、完全に独力でこなした。今作で使った楽器・機材は、「エレキ・ギターとちょっとした電子ピアノ、それらから出した音を MIDI コントローラの BCR2000 に通して、さらにコンピュータ上の Cubase SX へ」。このセットアップで彼は今も試行錯誤を続けており、まずノイズめいた音から始めて、ギターやソフトウェアを使って徐々にそれに手を加え、望みの音が出来上がるまでこの過程をくり返す。作品では或る種の「雰囲気(atmospheres)」を作り上げることを目指していて、それがたいていは「悲しい主題(sad themes)」を持つものになっている、とのこと。友達が deJune に「うまく目標を達成できているじゃないか」と言ってくれたそうだが、私も同感だ。

最初にメールでコンタクトをとった時、私は上でつらつら書いたようなことを(かなり端折って)述べ、Tarentel と初期の Labradford の音に似ていると思ったとも言った。個人的には、物を創る人に対してじかに「先行する誰それに似ている」という話を持ち出すのは失礼な気がするので、かなり気後れしつつ書いたのだが、deJune は意に介さず、そう思ってもらえるのは嬉しいという趣旨の返信をくれた。彼が影響を受けている/好きなミュージシャンは、これら2つのアメリカのバンド(と Pan American)の他に、Godspeed You! Black Emperor/Silver Mt. Zion を擁するレコード・レーベル Constellation の音、さらには「Eno, Faust, Cluster, Heldon, Magma, Neu, Can, Isan, Manyfingers, Boards of Canada, Cerberus Shoal……」、換言すれば「別次元を向いて音楽を創っている人たちなら誰でも(everyone who's looking to the other direction)」である由。ロック系以外では、ジャズと現代音楽もよく聴くそうだ。また、deJune は映画も大好きで、ことに小津・黒澤・北野を筆頭に日本人監督の作品は高く評価しているとのこと。

今後のプランを尋ねた。すでにソロ二作目の制作に取り掛かっているけれども、いつごろ完成するかは御本人にもまだわからない由。たぶん数カ月はかかることだろうが、次作を待つ間、私はこの1作目をまだまだくり返し聴いて飽きない気がする。

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  • deJune のストリーミング/ダウンロードは、上掲の Alg-a ネットレーベル、リリース頁、また Internet Archive の 当該頁で。

    なお、これとほぼ全同のリリースが、同じく Internet Archive の Open Source Audio セクションにも収録・公開されている。違いは、Open Source Audio 所収ヴァージョンでの1曲目 "a" のほうが6分53秒と長尺で、Netlabel セクションのほうは3分58秒になっている点。ミュージシャン御本人によれば、どうしてこうなっているのかよくわからない(笑)のだが、自分としては長いほうを正規のリリースとみなしたいとのこと。

    本作の権利関係については、www.alg-a.com にあるさらに別のリリース頁によれば、クリエイティブ・コモンズの by-sa(帰属・同一条件許諾)ライセンスに基づいて公開されている。本稿冒頭の画像は、このアルバムの“カヴァ”画像で、許可を得て縮小のうえ掲げた。deJune の友人が撮影した写真をトリミングしたものがオリジナルである由。

  • また Webjay プレイリストを作ってみた:deJune。これにはすぐ上でふれた "a" 長短双方のヴァージョンへのリンクを含めている。

    もう1本、リリース元ネットレーベル Alg-a の現時点までの既発作品すべてから、私自身の好みに合ったものをダイジェストして、プレイリストを作っている(今後、随時拡充する予定):Alg-a sampler。このレーベルは、現状では電子音を多用した作風のものが多数を占めているが、エレクトロニカとして括れるようなポップな感じというより実験的と呼んでいいユニークな音楽を集めている。それでいて、実験的なものにありがちな独りよがりがあまり感じられないという意味で、高い水準を維持していると思う。

  • 末尾ながら、本稿執筆にあたってご協力いただいた deJune に感謝します。お互いにとって不自由な英語でのやりとりにもかかわらず、懇切に対応していただきました。Graciñas!(は、ちょっと調べたかぎりではガリシア語で「ありがとう」のはずですが、正しいかどうか?)

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