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Sinestetici: "The Definition of Imperfection"

Sinestetici: The Definition of Imperfection (drift001)

歌入りエレクトロニカの秀作。ジャンルを問わず、ネットレーベルで聴かせるヴォーカル入りの音楽に出遭うことは、残念ながらまだまだ少ない。このリリースはその優れた先駆と呼んでいいと思う。

Drift Records という、今年(2005年)5月頃に設立されたネットレーベルから第1作として公開されたこの6曲・28分強の“EP” The Definition of Imperfection (Drift Records, drift001) は、レーベルの門出を祝う最初の作品にふさわしく、曲・歌唱・バッキングの音や編曲のいずれをとっても出色の出来映えだ。

この作品の魅力は、言うまでもなくヴォーカルで曲・詞も書いている女性、Sinestetici こと 米国テキサス州 Austin(オースティン)出身(あるいは「ワシントン州シアトル」在住(?)とも)の Samantha (Sammie) Ryan だ。

彼女の歌声は、たとえばこの EP 5曲目の "Vision" で聴くことができるように、高音域では非常に澄んでいる。いっぽうで、中音域から低音域にかけては、ちょっと不思議な力強さを感じさせる。とくにオン・マイクで掠れ気味に聴かせるところ、たとえばキャッチーなメロディをもつ1曲目 "Wrong" の歌い出しの部分などは、力まず女性らしさを感じさせながら、しっかりとした説得力がある。声の表情が豊かであるぶん、歌い方も多彩で、ふわふわとした透き通った感じから物憂さ、悩み惑うさま、悲しみ……など、さまざまな情感が表現されている。

最初にこのリリースを聴いたとき、私がまず魅かれたのは Sinestetici のこの声だった。

音作り

そして、彼女の声と同じくらい魅力的に思えたのは、この EP 全体を通じた音作りやアレンジだ。このミニ・アルバムの“ジャケット”画像ファイルには、KiloWattsDoFDaigoro(現在は Erstlaub 名義で活動中の由)という、3人のDJ/ミュージシャンの名前がクレジットされている。Sinestetici の声は、才能豊かな彼ら3人の手で巧みに処理されている。エフェクトをかけ、あるいは一旦バラバラにされ繋ぎ直されてリズム・トラックとして使われるさまは、KiloWatts がその伎倆を厭味なく見せる3曲目 "Reflective Defector" や4曲目 "Ideal Chameleon" 、また DoF との3曲の共作のうち EP の掉尾を飾る "A Love Song" の終曲部に明らかだ。

楽器の使い方もうまい。全般に過度に電子音で満たさず、ギターやピアノなどアコースティック楽器のやわらかい音を随所に使い、メロディの良さとヴォーカルの魅力を存分にひき出している。

毎度のことで、どうやってこうした素敵な音ができたのか、ミュージシャン御本人にメールで伺ってみた(女言葉で物を書いたことはないので、和訳の拙劣さはあらかじめ御寛恕を願っておきます。英語原文はこちらにて):

歌詞は、"Vision" を除いてどれもわたし自身のオリジナルです。"Vision" は17世紀アイルランド起源の古い聖歌(hymn)なの。曲のほうも全部わたしが書いたものだけれど、こうして出来上がった音を聴くと、わたしが作曲したと言っては申し訳ないくらい。現在のネットレーベルの世界でも最も才能豊かな何人かの人たちと一緒に音作りをすることができて、自分は恵まれすぎていると思えるくらいの気持ちです。

信じてもらえないかもしれないけれど、この EP の制作に携わったミュージシャンとわたしとは、完成まで一度も実際に顔を合わせたことがないの。最初から最後までネットを通じてやりとりしました。わたしたちが知り合ったのは、ファイル共有プログラムの Soulseek を使っていたのがきっかけ。KiloWatts と共作した2曲では、電話で彼とずいぶん時間をかけて議論したりプランをたてたりしたんだけれど、彼とも実際には会ったことはなかった。曲作りの実際の進め方は、たとえばまずわたしが、自分で「これはいいな」と思った音を彼らにファイルで送る。彼らのほうではそれを素材にしていろいろ試してみて、もうちょっと違う音がほしい、ということになると、彼らがわたしに、言葉でできる限りで「こうしてほしい」という要望を伝えてくれる。そんなふうにして、お互いできるかぎり最上のものを出し合って音を作っていった。こういうやり方だと、わたしはとくに自分のヴォーカルで制作上のイニシャティヴを発揮できるから、いろいろ冒険する機会もたくさんあって、音作りのプロセス全体が本当に楽しかった。それに、ファイルを交換しながらする曲作りって、思ったほど手間がかかるわけでもないの。

歌詞

私がそもそも Sinestetici こと Sammie さんに直接コンタクトをとってみることを思い立ったのは、彼女の音楽が魅力的だったこと、ただし(残念ながら英語は私の母語ではないので)歌詞がほとんど聞き取れなかったため、彼女はいったい何について歌っているのだろうと思ったからだった。幸いにも Sammie さんはすぐに(歌詞を添えて)返事をくれた。

彼女の許可を得て、印象的な歌詞(部分)をご紹介する:

Well I'm sorry
I'm so wrong
but I've been
telling you the truth
all along
and you've only believed what you tried to perceive
and what you wanted me to be
was nothing short of nothing that i am
but i adore you still
and i guess
nothing can and nothing will
change the way i feel
like I'm not good enough
in any way
to make you want to stay
or say
"I'll be there tomorrow morning"

〔趣意: ごめんなさい、わたしが間違ってた/ でもわたしはずっと本当のことしか口にしなかったのよ/ あなたが自分の見たかったものしか信じなかっただけ/ それは本当のわたし自身とはまったく別なもの/ だけどわたしはまだあなたを好き/ それでもわたしの気持ちは変わらないみたい/ あなたをひきとめられるほど魅力がない気がする/ あした会いましょうなんて言えない〕

"Wrong" から

ラブ・ソングと言って間違いはないだろう――ただ、この一人称の「わたし」はたぶん、年齢や性別を問わず誰でもありうるし、ここで描かれているような人間模様は、それが大切な人との関係でありさえすれば、どんな場合にも当てはまるような気がする。

こんなふうに、Sinestetici が歌う歌詞もまた、素直な言葉遣いでありながら情感や想いに満ちた魅力的なものだ。

…………

また言葉を連ねて書いてみたが、とどのつまり、The Definition of Imperfection は非常に印象的な作品で、くり返し聴いてもなかなか色褪せない。Sinestetici の確固とした存在感をもった女性らしい声、それが歌う感情移入を誘う詞、そして手が込んでいながら決して度を越さない丁寧な音作り――これを初めて聴いたとき、私が真っ先に連想したのはエレクトロニカに踏み込んで以降の Everything But The Girl (ebtg) だった。おそらく、この連想は少なくとも現時点ではそれなりに有効だろう。違いは、Sinestetici はいわば現在進行形の才能で、今後のリリースできっと聴き手(の私)のこうしたやや安直な予想を裏切る活躍をしてくれる、それが十分に期待できる、ということではないか。

----------

  • まずは権利関係を先に。The Definition of Imperfection は、クリエイティブコモンズの by-nc-nd (帰属・非営利・派生禁止) ライセンス下で公開されている。

    冒頭に掲げた画像は、この EP リリースのカヴァ。作者は Drift Records の創設者(で自身もミュージシャンの) Rochie さん。

  • Sinestetici こと Sammie さんのウェブサイトには、上掲のこちらに加えて、どうやら公式のものらしい Sinestetici 別サイトが、Drift Records ドメイン内にある。そこから彼女の公式メーリングリスト(告知専用)へ。

  • Sinestetici の曲はすでに12インチ・シングルとCDに収録されているようだ。

    12インチの音源サンプルが、Streetwise Music というオンライン・レコードショップの Kilowatts: Ideal Chameleon 頁で試聴可能(各2分ほど)。このシングル盤リリース元は Sober Music

    "Ideal Chameleon" は、売れっ子DJ(らしい、私はこの方面についてもまったく昧い)Max Graham のコンピレィション(?) Mixmag Live にも収められている由。

  • いつものとおり、Webjay でプレイリストを作ってみた: Sinestetici。標記リリース全曲に、彼女のウェブサイトで公開されている "Sammie Gets It On" (ちょっと実験的な音で、これもおもしろい)へのリンクも含めた。また、Drift Records の既発リリースには、今作で存分に腕を振るっていた DoF の単独アルバムも含まれている。こちらもプレイリストにしてみた: Drift Records sampler

  • 末尾ながら、いくつかの質問に懇切にご回答いただき、この拙稿での歌詞の公開を含めさまざまなご助力を賜った Sammie さんに、重ねて御礼申し上げます。

  • 〔2005年11月15日追記〕 前回更新からまた間が空いてしまったにもかかわらず、いつもどおりノロノロと本稿を書いていたら、精力的に多数の魅力的な音楽を(ネットレーベルに限らず)紹介しておられる egal さんのウェブログ pure, impure、05年11月13日付エントリ「Sinestetici」で Sammie さんのこのリリースが紹介されていた。

    Sinestetici 関連では、これ以外にも egal さんは、DoF の Drift Records でのリリースの紹介記事、上掲の Sammie さんの音作りのところでも出てきた Soulseek 関連のプロジェクト/レーベルの記事などを書いておられる。私も常々拝読していろいろ参考にさせていただいている。ご一読をお勧めしたい。〔05年11月15日追記終〕

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