Stadtgruen オムニバス "Ennui"
また上質のコンピレィションに出遭うことができた。ドイツを拠点とするネットレーベル Stadtgruen から、先月下旬(05年9月23日付)リリースされたアルバム Ennui(gruen012/stadtgruen023)。
アコースティック楽器の音や自然音がまったくと言っていいほど聞こえず、(個人的にはかなり苦手な)グリッチやスタティック・ノイズで細かいビートを刻む曲も含まれているにもかかわらず、全篇を通じて不思議に静けさに満ちた秀作。明る過ぎず、かといって(アルバム標題は“倦怠感”だが)極端に暗鬱なわけでもなく、聴いているといつの間にか寛ぎを深めてくれる。音色の的確な選択と全体に音数を抑えていること、それに各曲のゆるやかなテンポによるのだろうか。全6曲、58分。秋色深まるこれからの宵にお薦めです。
“都市の緑”/“都市と緑”
Stadtgruen レーベルは、(公式サイトの「news」での記述によれば)2004年元旦に設立された。1年9カ月を経て、本稿執筆時点ですでに23作をリリースしている。レーベル名はドイツ語お得意の複合語で、元々は市街地にある公園などの緑地帯を意味する言葉のようだ。このレーベルではこの複合語を分解して、文明・文化の集積/精華たる都市(Stadt)と、自然を象徴する緑(grün)との二項に分け、前者にはいわゆる“テクノ”的な音楽を、後者には同じくアンビエント音楽を充て、順に "stadt"、"gruen" という一種のサブ・レーベルに仕立てて、それぞれの分野のリリースに連番を付けている。
サイトを一見してすぐ気づくように、このレーベルはかなり饒舌だ。レーベルの創設意図(サイトの「About Us」-->「Philosophy」)や各作品のリリース・ノート、それにミュージシャン紹介頁には、かなりの分量の文章が綴られている。書かれた内容は概して思弁的で、けっこう難しい。それでも音楽的なベースは“古典的な意味でのミニマリズム”だと謳っていて、とくにアンビエント系の "gruen" でリリースされた作品には、寡黙でありながら比較的聴きやすい曲が多いのはおもしろい。
サイトの「About Us」-->「Philosophy」には、
"Thereby our music-theoretical starting point is the classical Minimal Music [with its current developments of the Clicks&Cuts scene, Minimal Dub and Minimal Techno.]"
という記述がみえる。
このレーベルがもつ、統一感のあるコンピレィション制作能力の高さは、gruen007 として2004年12月にリリースされた Janus にも表れている。この全12曲、78分弱のアルバムでは、多くのトラックでインダストリアル・ノイズを思わせる音、あるいは市街地でのフィールド・レコーディングから採った音が用いられていて、プロデュースの意図を窺わせる。Ennui に較べるとより明瞭なビートのある曲が多いが、やはり全般的にゆったりとしたリズムで、音数を控えめにする一方で深くかけた残響を巧みに活かしている。こちらのアルバムもぜひ、一聴をお薦めしたい。
----------
-
冒頭に掲げた“アルバム・カヴァ”画像を含め、Stadtgruen レーベルの作品はすべて、Creative Commons の帰属・非営利・同一条件許諾(by-nc-sa)ライセンス(by-nc-sa)下で公開されている。
-
上掲でとりあげた Ennui と Janus の全篇を、Stadtgruen sampler と題した Webjay プレイリストにまとめてみた。曲の排列はリリースのままで、手を加えていない。(このレーベルのリリースはほぼ聴いたと思っていたが、どうやら漫然と聞き過ごしてしまったものがかなりあったらしい。既発分とこれからのリリースもフォローして、プレイリストは今後随時増補する予定)
ネットレーベルその他インターネット上で公開されている音楽を、出来合いの Webjay プレイリストを使って(Webjay プレイリストを作ること自体は、残念ながらまだそれなりに手間がかかる)聴くのと、個々のリリース頁を開いて(ドラッグ&ドロップなどで)音源プレイヤー・ソフトに引っぱってきて聴くのと、どちらが便利かは微妙なところだとは思うが、ご参考までに。
-
上記2枚のコンピレィションに1曲ずつ提供している Renniac 公式サイト(下段左のナヴィゲイション、右側コラムの「Englisch」から英語版へ)には、「contemporary music」セクション内に、暫定公開されている音源ファイルがある。本稿執筆時点では "Basalt Variation" と題されたトラック。約22分と長尺の力作。
個人的には、同じく1曲ずつ提供している Kuomi/Martin Donath(Kuomi は、Stadtgruen 創設メンバーの一人、Martin Donath さんの別名)の作品ともども、この2人のアンビエント・トラック(どちらのアルバムでも掉尾を飾っている)が最も印象深い。